眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 ぽろっと雫が目尻を転がると、嶺人がぎょっとしたように聞いた。

「泣くほど嫌だったか?」
「そうではなくて……安心して……」

 濡れる頬を拭って、美雨はそっと瞼を上げる。涙に滲んだ視界に大切な人の顔が映る。ああ、と息が唇からこぼれた。

「私、まだ嶺人さんを好きでいてもいいですか?」
 目を瞬けば涙が晴れて、こちらを見据える嶺人の表情がよく見える。彼は本当に嬉しそうに微笑んで、そうっと美雨の頬を撫でた。
「いいに決まっている」

 そうして顔が近寄せられ、吐息が混ざり合い、唇が触れる。すぐにもっと深く繋がって、嶺人が堪えきれないように熱い息を漏らした。いつも白々としたかんばせの、目元が赤くなっている。美雨の足に触れようとした手がぐっと握り込まれた。

「あの……私の足は開きませんが……それでもよければ……」

 羞恥に顔を赤らめながら言うと、嶺人が呆気に取られたように目を見開いた。だがすぐに柔らかく片笑み、美雨の耳朶に唇を近づける。

「それくらい些細なことだ。美雨は俺にだけ任せてくれればいい」

 美雨はもういっぱいいっぱいで、真っ赤な顔を晒して頷くしかできなかった。自分の体を暴く嶺人の手の温もりにほっと胸を撫で下ろしてから、奇妙なことだと我に返る。
 こんな思いをさせているのは彼なのに、美雨はどうしても嶺人に寄る辺を求めてしまう。
 嶺人が妖艶に微笑んだ。

「大丈夫だ、痛い思いはさせない。……良いことだけしてやる」

 寝室の明かりが消され、あとは瞬く夜景だけが窓を照らしていた。
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