眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 急にびゅうと風が吹きつけて、美雨は危うく転びそうになった。「美雨っ」と嶺人が素早く駆けつけ、美雨を抱き留める。

「も、申し訳ありません、調子に乗りました」
「いや、怪我がなければそれでいい」

 嶺人は優しく言って、美雨の頭を撫でる。それから感極まったように強く美雨を抱きすくめた。

「く、苦しいです。嶺人さん、何かございましたか?」

 嶺人はしばらく口をきかなかった。だがやがて、ささやかな波音に紛れ込ませるように打ち明ける。

「美雨が自分の足で俺の元へ来てくれるのが、こんなにも嬉しいとは思わなかった」

 鼓膜を震わせる声は熱に掠れていて、美雨の胸を焦がす。
 気づけば美雨も、ぎゅっと嶺人の背を抱きしめ返していた。

「私もです。もっと歩けるようになったら、色々な場所に行きましょう。そして最後に嶺人さんの隣に帰ってきます。そうできるのが何よりも嬉しいのです」

 嶺人は何も言わず、ただ愛おしそうに美雨を抱き続ける。美雨はその胸に頭を預け、眠るように瞼を下ろした。

 ――岬グループ元帥の退任を、美雨が知るのは翌朝のこと。
 今は愛する人の腕の中で、彼女は微睡む。

 〈了〉

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