王太子殿下の花嫁探しに選抜されまして!?
「わ、わたしが王子様と結婚?」
まもなく夏も終わろうかという日の昼下がり、院長室に若い娘の素っ頓狂な声が響いた。
「アンナ、人の話はよく聞きなさい。結婚ではありません。あなたが我が国の王太子であるエドウィン様のお妃候補に選ばれたのです」
「候補? ってことはわたしがお妃様に選ばれるかもしれないってことですか?」
「詳しいことはこちらの騎士様がお話くださります」
院長が呆れ声をだしつつ隣へ視線を向けた。
この小さな聖堂では、院長室が実質的な応接間も兼ねている。そういえば呼ばれて入室したこの部屋には、初めて見る三十手前と思しき騎士がいたのだったとアンナは思い至る。
アンナは、そういえば見慣れない騎士が同席していることを思い出した。
こんな辺鄙な場所に似合わない立派な身なりの騎士に当初警戒心を抱いていたのだが、院長から発せられた突拍子もない話に驚きすぎて忘れていた。
だって、田舎も田舎な町の聖堂付きの聖女たるアンナがある日突然王子様のお妃様(候補)だなんて、信じられないにもほどがある。それを目の前に座る院長ときたら至極真面目な顔つきで言うのだから余計だ。
「では、私から説明させていただきます」
前置きのあと騎士が語ったところによれば、このたびエドウィン王子の結婚相手として聖女を迎え入れようということになったとのこと。
王国には数多の聖女が存在する。ここは一つ公平を期するために王国中に散らばる聖堂から一人ずつ候補を選び、王都中央大聖堂に集めて、エドウィン王子のお妃選びをしようという話になったそうだ。
ちなみに諸々の都合上、中央大聖堂からは五人が選抜されたとのこと。中央といえば貴族に連なる家に生まれた聖女が多く在籍している。その中から候補者一人だけなんて、色んな意味で血を見る羽目になりそうだなあと、田舎者のアンナにも想像ができた。だからこその五人枠であろう。
「な、なるほど……。それでこの聖堂から選ばれたのがわたし? ということでしょうか?」
「左様です。エドウィン殿下は現在二十歳。殿下との年齢のつり合いを兼ねてお妃候補となる聖女は十五歳から二十歳までと制限を設けることとなりました」
「だとしたらこの聖堂だとわたししか候補はいないですね!」
そりゃあアンナが呼ばれるわけである。アンナが暮らす、この片田舎の聖堂に所属している聖女は六歳、九歳、十二歳、そして十七歳のアンナで計四人。
花も恥じらうお年頃のアンナではあるが、金の髪は風に吹かれてやや色あせているし、下働きだけでは聖堂の生活は回らず、妹聖女たちと一緒に炊事洗濯にも精を出しているため滑らかな手とは程遠い。
「話が早くて助かります。ではよろしく頼みましたよ、アンナ」
院長が立ち上がる。そしてアンナにさっさと荷支度をしろと言わんばかりにせっつく。
「え、今日出発するとか言わないですよね?」
「いいえ。本日中に出立を希望されています。王都までは日数がかかりますからね」
院長の声に合わせて騎士が頷いている。
話が始まって十分足らずでアンナは王子様の花嫁候補として出立することになった。
* *
まさか王国の片田舎の聖女が王子様の花嫁候補に選ばれるとは。
立派な馬車に載せられたアンナは怒涛の展開にやや遠い目をしていた。
あれから必要なものを鞄に詰めて旅支度を行った。その最中妹聖女たちがまとわりつき「大きな街に行くんでしょう? お土産よろしくね」とか「王子様のお顔を絵に描いてきてね」とか「お土産はお菓子がいいなあ。うんと甘いやつ」などと好き勝手な要望を告げていった。
まもなく夏も終わろうかという日の昼下がり、院長室に若い娘の素っ頓狂な声が響いた。
「アンナ、人の話はよく聞きなさい。結婚ではありません。あなたが我が国の王太子であるエドウィン様のお妃候補に選ばれたのです」
「候補? ってことはわたしがお妃様に選ばれるかもしれないってことですか?」
「詳しいことはこちらの騎士様がお話くださります」
院長が呆れ声をだしつつ隣へ視線を向けた。
この小さな聖堂では、院長室が実質的な応接間も兼ねている。そういえば呼ばれて入室したこの部屋には、初めて見る三十手前と思しき騎士がいたのだったとアンナは思い至る。
アンナは、そういえば見慣れない騎士が同席していることを思い出した。
こんな辺鄙な場所に似合わない立派な身なりの騎士に当初警戒心を抱いていたのだが、院長から発せられた突拍子もない話に驚きすぎて忘れていた。
だって、田舎も田舎な町の聖堂付きの聖女たるアンナがある日突然王子様のお妃様(候補)だなんて、信じられないにもほどがある。それを目の前に座る院長ときたら至極真面目な顔つきで言うのだから余計だ。
「では、私から説明させていただきます」
前置きのあと騎士が語ったところによれば、このたびエドウィン王子の結婚相手として聖女を迎え入れようということになったとのこと。
王国には数多の聖女が存在する。ここは一つ公平を期するために王国中に散らばる聖堂から一人ずつ候補を選び、王都中央大聖堂に集めて、エドウィン王子のお妃選びをしようという話になったそうだ。
ちなみに諸々の都合上、中央大聖堂からは五人が選抜されたとのこと。中央といえば貴族に連なる家に生まれた聖女が多く在籍している。その中から候補者一人だけなんて、色んな意味で血を見る羽目になりそうだなあと、田舎者のアンナにも想像ができた。だからこその五人枠であろう。
「な、なるほど……。それでこの聖堂から選ばれたのがわたし? ということでしょうか?」
「左様です。エドウィン殿下は現在二十歳。殿下との年齢のつり合いを兼ねてお妃候補となる聖女は十五歳から二十歳までと制限を設けることとなりました」
「だとしたらこの聖堂だとわたししか候補はいないですね!」
そりゃあアンナが呼ばれるわけである。アンナが暮らす、この片田舎の聖堂に所属している聖女は六歳、九歳、十二歳、そして十七歳のアンナで計四人。
花も恥じらうお年頃のアンナではあるが、金の髪は風に吹かれてやや色あせているし、下働きだけでは聖堂の生活は回らず、妹聖女たちと一緒に炊事洗濯にも精を出しているため滑らかな手とは程遠い。
「話が早くて助かります。ではよろしく頼みましたよ、アンナ」
院長が立ち上がる。そしてアンナにさっさと荷支度をしろと言わんばかりにせっつく。
「え、今日出発するとか言わないですよね?」
「いいえ。本日中に出立を希望されています。王都までは日数がかかりますからね」
院長の声に合わせて騎士が頷いている。
話が始まって十分足らずでアンナは王子様の花嫁候補として出立することになった。
* *
まさか王国の片田舎の聖女が王子様の花嫁候補に選ばれるとは。
立派な馬車に載せられたアンナは怒涛の展開にやや遠い目をしていた。
あれから必要なものを鞄に詰めて旅支度を行った。その最中妹聖女たちがまとわりつき「大きな街に行くんでしょう? お土産よろしくね」とか「王子様のお顔を絵に描いてきてね」とか「お土産はお菓子がいいなあ。うんと甘いやつ」などと好き勝手な要望を告げていった。
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