四葉に込めた一途な執愛


 先生曰く、私は事故に遭ったのだそうだ。
 そのショックで記憶を失ってしまったらしい。

 変に刺激を与えてしまうかもしれないと、事故の詳細は聞かされていない。
 思い出したくないことがあるかもしれないし、無理に思い出そうとしても心の負担になって良くないとの判断だった。

 ただ、私が目覚めた時陽生先生の泣き顔を見た。
 ビー玉みたいな美しい瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
 私のことを「ちなみ」と呼びながら。

 あの時、どうして先生が泣いていたのかわからない。
 あれ以来私のことは「四葉さん」と呼び、いつも穏やかに優しく微笑みかけてくれる。

 泣いていたなんてまるで嘘のようだ。

 先生の涙のわけを聞いてみたいような気もする。
 だけど、その答えを知ったところで私は何も思い出せないのだろう。

 そう思うと先生のことを傷つけてしまいそうで――怖かった。


「先生、今日のところは帰ります」

「うん、気をつけて。また来週ね」


 陽生先生にぺこりと会釈をして、私は診察室を出た。
 先生はにこやかに見送ってくれた。

 また来週。
 来週また陽生先生に会えると思うと、何だか心がほっこりとする。

 自分の指針がなく、真っ暗闇を歩いているような感覚の中で一筋の光が差したような。
 そんな温かい気持ちにさせてくれた。

 週に一度の陽生先生の診察は、私の密かな楽しみとなっていた。


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