元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 飛鳥の顔など見たくなくて、走る車の車窓から街を眺めていた。

「ここ……」

 見間違うはずがない。夜の高級住宅街に、突如現れた高層レジデンス。それが建っているのは、私の生まれ育った玖珂家のお屋敷があった場所だ。

「懐かしいだろ?」

 隣の座席で、足を組んだ飛鳥が言う。

「いわくつきって、誰も欲しがらなかった土地を俺が買い取ってレジデンス建てたんだ。この立地なだけでバカにならない金額なのに久恩山のネーミングで全室即完売だってよ」

 だから何!? どれだけ私から奪ったら気が済むの!?

 幼い頃の思い出を上塗りするように建てられた久恩山名義のレジデンス。私は膝の上で拳を握った。怒りで身体が震える。

「ちなみに、ここの最上階が俺とお前の愛の巣、な」

 飛鳥がそう言い終わる間に、車は地下駐車場へと吸い込まれていった。

 常駐するコンシェルジュに頭を下げられ、居心地の悪いまま最上階へ向かう。

「これ、持っとけ」

 エレベーターの中で、カードキーを渡された。溜息をこぼし、エレベーターの壁に手をついた。

 最新式のエレベーターはとても静かなのに、階数表示がどんどん上の階を示していく。そんな中で、どこか懐かしい、古い木の香りがした。

「それ、お前んちの壁」
「え?」
「ただ取り壊すのも勿体ねーし、そこにはめてもらった」 

 見上げた飛鳥は、何を考えているのか良く分からない顔をしていた。

「あっそ」

 だから、私も心の内を悟られるのは悔しくて、冷たく言い放った。
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