元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「安心しろ、きっとお前はこの部屋も好きになる」
「なるわけない!」

 泣きたくなんかなくて、慌てて目元を拭う。

 すると、「色春様?」と小さな声が聞こえた。見れば、飛鳥の後ろからひょっこりと顔をのぞかせる、懐かしい初老の女性。

「恵美さん?」
「色春様!」

 彼女はぱぁぁと目を輝かせ、飛鳥の横をすり抜けこちらにやってくる。

「ご無沙汰しております。わぁ、こんなに立派になられて!」

 彼女は私がまだ玖珂家の令嬢だった頃、住み込みで働いていた家政婦だ。

「立派だなんて、そんな」
「お一人で悲しみを乗りこえて、お仕事をして生活なさっている。とても立派なことではありませんか」

 恵美さんはうふふと笑ったけれど、私が抱いていた写真立てを見ると顔を曇らせた。

「できるだけ丁寧に、元のお部屋と同じようにとお運びしたのですが、何か不手際がありましたでしょうか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ。この部屋の家具、恵美さんが?」
「ええ。女性のお部屋に入るのは憚られるからと、飛鳥様が私に一任してくださいました。重たいものは業者の方に頼みましたけれど、どうしても旦那様奥様の写真だけはと、私が運ばせていただきました」

 なんだ飛鳥、ぞんざいに扱ったわけじゃないんだ。

 そう思って部屋の入口を見たけれど、そこに飛鳥はいなかった。
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