元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「では、私はこれで」

 湯気の立つ夕飯をダイニングテーブルに並べると、恵美さんは前掛けを外した。

「え、恵美さん帰っちゃうんですか!?」

 てっきり、ここで住み込みになると思っていたのに。

「ええ。婚約したてのお二人の邪魔なんてできませんから。あ、明日の朝食は冷蔵庫に入れてありますので、温め直してお召し上がりくださいね」

 驚く私の目の前で、飛鳥はいつもそうしているかのように「明日も頼む」と軽く告げる。恵美さんは私に一度微笑んで、本当に部屋を出ていってしまった。

 二人きりになってしまった。ドク、ドク、と、心臓が嫌な音を立てる。婚約してしまった最低な男は、何食わぬ顔で目の前で夕飯を食べている。

「食わねーの?」
「た、食べるっ!」

 ご飯に罪はない。それに、恵美さんが作ってくれたものだ。美味しいものは、美味しいうちに頂きたい。けれど、慌てて口に運んだ料理は、どれも味がわからない。

 飛鳥も黙って食べている。その箸使いは綺麗で、やっぱり彼が良家の息子であるということ物語っているよう。

 ――やっぱり、御曹司なんだよね。

 だから、お金の使い方も大胆で、やることも全部大胆で。会社の買収の条件にかこつけて婚約しちゃうし、この土地も買い取っちゃう。私のことを、「好きだ」とか言って。
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