元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜

思い出のチョコレート

 そんなこんなで、週末がやってきた。飛鳥は全国の工場の視察や挨拶回りで会社も部屋も開けることが多かったが、専属運転手かつ専属家政婦付きの生活は特に不自由もない。

 むしろ、恵美さんとの会話は会社で浴びる視線などのストレスから開放してくれる、ほっこりタイムでもあった。

 生活が一変してしまったはずなのに、変わらない毎日を送れている。御曹司の婚約者だからといって、特別なこともないんだと感じながら、出かける支度をした。今日は飛鳥と、伯母に挨拶に行くことになっている。

 「一応、二人で挨拶に行ったほうがいいだろ」という、飛鳥の発案だった。ちなみに、服はあの日から毎朝、なぜか飛鳥が持ってくる。

「準備、できたか?」

 部屋の扉を開けた飛鳥は、いつも通りに高級スーツを着こなしていた。

「今行く」

 今日はミモレ丈のエンパイアワンピースだ。桜みたいな優しい色合いは私の好みだが、しっかりとした生地は高級品なのだろう。

「俺の隣りにいるんだから、そのくらい着こなせね―とな」

 飛鳥は立ち上がった私にそう言う。きっとこれは、彼なりの「似合う」なのだと、私は受け取った。

 駐車場に降りると、いつもの高級車は停まっていなかった。代わりに、飛鳥は車高の低いスーパーカーの助手席を開け、私に乗るよう促した。

「今日は俺が運転すっから」

 ステアリングを握る飛鳥はサマになっている。大きなサングラスが余計に、飛鳥の御曹司オーラを増幅させている気がした。
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