元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 飛鳥の運転する車は高速を降り、私の伯母の元へ。都心からそんなに遠くはないが、それなりに田舎なので高級車では目立つようだ。

 飛鳥は伯母の家、無駄に広い庭に勝手知ったる様子で車を停めると、車から降り、助手席の扉を開いてくれた。

 後ろに、近所のおじさんやおばさんが集まっている。見世物じゃないんだけどなぁ、なんて思っていると、伯母が玄関から顔を出した。

「色春ちゃん、飛鳥さん! いらっしゃーい」


 高校二年間を過ごした、伯母の家。そのリビングに、飛鳥と並んで腰掛けているのは、なんだか変な感じがする。

「この度は、私と色春さんの婚約を快諾くださったこと、誠に――」
「いいのよ、そんな堅苦しい挨拶は!」

 伯母は御曹司を目の前にテンションが上がっているらしい。化粧の濃さも、いつもの五割増しくらいになっている。

「色春ちゃん。たった二年だったけれど、私はあなたを娘のように思ってたわ。幸せになるのよ」
「うん。でも、婚約したとはいえ、まだ伯母さんに借りたままの大学の授業料もあるし。これは私が稼いだお金で、必ず全額返すから」
「分かったわ」

 不意に、飛鳥がつま先をピクピクと動かしているのが目に入った。

「飛鳥、どうかした?」
「いや、何でもない」

 飛鳥がこちらに向けた笑顔は、いつもの自信に溢れたものではなく、張り付けたもののよう。けれど、まあ仕方ないよなぁ、私を引き取ってくれた相手の前だし、と、あまり深くは考えなかった。

「そうだ、せっかくだから二人とも、お昼ご飯食べていきなさいよ」

 伯母が立ち上がる。飛鳥に視線を投げると、「すみません、この後の予定もあるので」と飛鳥がやんわり断った。
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