元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜

大好きだから。癪だけど!

「待ってたよ」

 冬梧さんがそう言ったから、私は迎えに来ていた運転手さんに目くばせをした。彼は何も言わずに頷き、その場で待機してくれた。

「飛鳥社長は?」
「今は出張中でいないよ」
「そっか。丁度良かった」

 冬梧さんはそう言うと、優しい笑みを浮かべた。

「話したいことがあるんだ。ここだと、少し話しづらいんだけれど……移動しても?」

 その笑みに、胸がドキリとなる。けれど、今の私は飛鳥の婚約者だ。薬指のリングに触れるように、ぎゅっと左手を握り締めた。

「ごめん、飛鳥に訊かないと――」
「色春は本当に飛鳥社長が好きなんだね。騙されてるだけなのに」
「え?」

 騙されている? 私が、飛鳥に?

「いいよ、色春がそのまま幸せになれるなら。俺といた方が、幸せになれると思ったんだけど」

 冬梧さんはそう言って、くるりと踵を返す。

「待って!」

 思わず、呼び止めてしまった。冬梧さんが、振り向く。私は運転手さんに断って、冬梧さんと共に会社を後にした。
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