元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 仕方なく、そのまま部屋に戻った。特にすることもなく、ベッドの上に寝転がる。

 例え何も話さなくても、昨夜は一緒に寝られて幸せだった。この家では、寝室も別なんだよなぁ。こぼしたため息は、掛布団が吸収してゆく。

 好きって、嘘だったのかなあ。それとも、今流行りの蛙化ってやつ!?

 けれど、同時に思い出す。飛鳥はちょっと強引だけれど、いつだって私のことを考えて動いてくれていた。

 きっと、飛鳥は忙しいだけだ。だって、あの時から――十年も前から、人の話を聞いてないと思っていたあの時から、ずっと私のことが好きだったんだから!

 よぎった不安をごまかすように、私も飛鳥のために何ができるか考えた。

 よし、明日、飛鳥の分の朝ご飯は私が作ろう。そう心に誓って、目を閉じた。


 けれど、翌朝目が覚めた頃には、飛鳥は部屋にいなかった。もう既に出て行った後らしい。
 ダイニングには、今日の服が用意されていた。仕方なく着替え、仕方なく一人分の食事を温めて食べた。ほどなくして、運転手さんが迎えに来て、私は仕方なく仕事へ向かった。

 その週、飛鳥とはすれ違いの毎日だった。考えてみれば、飛鳥は先週も同じくらい地方に飛んでは視察をしていたのだから、共に過ごす時間が減ったわけではない。けれど、意識してしまった気持ちのままでは、どうにも寂しさを感じてしまう。

「寂しいですね。せっかく、色々揃えてらしたのに」

 ある晩、恵美さんに言われてしまい、「そんなことないですよ~」と笑って返した。左手に光るリングは、悲しいくらいに綺麗に輝いていた。

 週末、金曜日。落ち込む毎日を過ごす中、いつものように会社を出ると、不意に声をかけられた。

「色春」

 冬梧さんが、なぜかそこで私を待っていた。
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