元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 スプリングがきしみ、私の背中を包む。両腕をシーツに縫い留められ、あの夜が不意に脳裏に蘇った。

「いつから思ってたんだよ。俺に抱かれたいって」

 飛鳥はじっと私を見つめる。その瞳を見つめていると、私は嘘がつけなくなった。

「あの夜から」
「は?」
「パーティーの夜から。飛鳥のこと、好きだったし抱かれてもいいって思った。だから、キスだって受け入れたのに――」

 言葉は飛鳥からのキスに飲み込まれた。いきなりの濃厚なキスに、頭がくらくらする。

「んだよ、お前結構前から俺の事好きじゃん」

 長いキスを終えると飛鳥がニヤリと口角を上げる。

「悪い?」

 キスで奪われた呼吸を整えながら、睨むように見上げると、飛鳥はニヤリと口角を上げた。

「悪くない。むしろいい」

 そう言って、私の唇に触れるだけのキスを落とした。そこでふと、疑問が浮かぶ。

「飛鳥、パーティーの夜のこと覚えてるの?」
「ああ。はっきり全部。でもあん時は、お前が元婚約者のこと忘れたくて俺に抱かれようとしてるんだと思ってた。嫉妬してキスして、でも無理やり犯して自分のものだってアピールすんのも大人げねーなって途中で理性が踏みとどまって、寝たフリした」
「抱いちゃえば良かったのに」

 あの夜のことは、思い出すだけで恥ずかしい。だから、つっけんどんに言ってそっぽを向いた。

「抱けねーよ。お前のことは大事にしたいし優しくしたいから」
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