元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「お前は俺を絶対に好きになる」

 言いながら、飛鳥はあの頃と同じように親指をぺろりと舐めた。けれど今はチョコレートなんてついていない。まるで私を味見するような、そんな視線に背が粟立った。

 すると飛鳥は不意に、耳元に唇を寄せる。

「ちなみに、お前との婚約はTSF買収の条件のひとつ。拒否してもいいが、そうすると久恩山がTSFに出資した開発費用はパァだ。そのうえ契約不履行で莫大な損害賠償金を払わされるんだろうなぁ」

 今度は脅し!? ほんっとう、ムカつく!

 けれど、会社のことを引き合いに出されたら、簡単にノーとは言えなくなる。

「……分かった」

 うつむき、拳を握る。けれど、もう一度飛鳥を睨むように顔を上げた。

「私、飛鳥との婚約を、受け入れる。けど、絶対にアンタを好きになんてならないから!」

 それでも余裕の笑みを浮かべる飛鳥が憎い。

「これは愛のない婚約だから! 形だけだから!」
「俺の愛はあるけどな」

 飛鳥はそう言うと、クスリと笑った。
< 9 / 53 >

この作品をシェア

pagetop