その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜


今にして思えば、ロベリアの営業さんが急に辞めたのはこの人が何か手を回したんだってわかる。
気に入らないものへの、そういう冷酷さがある人。
私もその冷酷さで切り捨てられたはずなのに……。


二十時。
「え?」
「お会計はもう済んでいますよ」
やられた。
割り勘だって念を押したのに!
「受け取ってよ! 割り勘だって言ったでしょ!?」
焼肉屋を出て、彼にお金を押し付ける。
「いらない。君に酒を奢ってもらった分だ」
「あんなの五百円じゃない! 金額が全然違う」
ううん、たとえ一円の差だったとしても……。
「あなたに借りは作りたくない。だいたい、お医者さんに診てもらった分だって返してない」
そう言った私の腕を、彼がグイッと引き寄せて顔を覗き込む。
「それなら、別の方法で返してもらおうか」
「え……」
「君の身体で」
「は? 何言ってるの!? お断りします!」
焦って赤面する私を、彼は笑う。
「安心しろよ、健全な意味だ」

その不敵な顔で〝健全〟なんて言われたら、余計に何が何だかわからない。

はっきり言って、嫌な予感しかしない。
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