その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
酩酊
その知らせは一週間後にもたらされた。

「碇ビールの傘下? なんで急に……」
営業部長の声とともに社員がどよめく。
本社と工場合わせて従業員百名程度のスーシブルーイング。
月曜の朝礼で、社長自ら碇ビールに買収されることと自身の退任を発表した。
あまりにも突然で、営業部長以外の社員も同じことを声に出しそうになっていた。
「正式にはひと月後になるが、希望者は全員そのまま雇用となるので安心してください」
雇用が継続されても業務内容まで全てそのままというわけにはいかないわけで、社内にはそれなりに困惑の声があった。
だけど結局、国内最大手の碇ビールの傘下に入ることは大抵の社員にとってはメリットしかない。

私だけは、みんなとは違うであろう戸惑いで眩暈がしていた。
だってこれは、どう考えても……。

『それなら、別の方法で返してもらおうか。君の身体で』



一か月後。
【雪中花音殿 総務部秘書課勤務を命じます】
碇ビールの本社に呼び出された私は、辞令を前に唖然としていた。

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