その執着は、花をも酔わす 〜別れた御曹司に迫られて〜
碇ビール


「はぁ……」
昼過ぎ、自宅マンションに帰って玄関のドアにもたれてため息をつく。
まだ心臓がドキドキしてる。
だって現実味が無さすぎる。



『〝また始める〟って、何を言っているんですか?』
組み敷かれたまま、精一杯の虚勢で彼を睨む。
『何って』
彼が顔を近づけて、またキスをしようとしている気配を察知する。
必死に手首を振りほどいて、上体を起こし、彼の唇を手で塞ぐ。
彼がムッとしたのが、目元だけでわかる。
『もしも……やり直すっていう意味なら、無理です』
『なぜ?』
彼は私の手を掴んで顔から離す。
『なぜって……』

終わらせたのはそっちでしょ?
それにもう、あんな思いはしたくない。
そしてそれは、この人が碇成貴である限りは避けられない。

『わ、私、結婚したんです』
嘘でもなんでもいいから、この場から早く去りたい。
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