雨降る夜に君を想う

名前で呼び合う仲になるまで

その1週間後の金曜の夜、私達は仕事の後に4人で集まった。お互いの会社のちょうど真ん中くらいの距離にある海鮮のお店を、成瀬さんが予約してくれた。

「「「「お疲れ様でーす!」」」」

みんなビールを片手に乾杯をする。
私はビールが苦手なので、レモンサワーを頼んだ。
初めての4人とは思えないほど、話が盛り上がった。

「私たち、きっと年齢近いですよね!成瀬さんと片桐さんはおいくつなんですか?」

私がそう聞くと、片桐さんが、

「僕25です。もしかして2人とも僕と同い年ですか?」

私と絵梨奈はびっくりして顔を見合わせた。

「えー!私達は今年27です。私たちより2個も下なんですね…」

絵梨奈がそう言うと片桐さんが、

「こいつなんて僕の一個下なんでまだ24ですよ!」

「「え?!」」

思わず絵梨奈と言葉が被る。

「じゃあ私たちの3個下だ…」

私は驚いてとそう呟き、成瀬さんの方をチラッと見る。彼はなぜか少し悲しそうな嫌そうな顔をしていた。
年齢の話をされるの嫌だったかな、余計なこと聞いちゃったかな。私がそう気にしていると、

「ていうか、お二人とも僕たちより年上なんだから、敬語やめてください!」

と片桐さんが言った。

「それなら、2人も敬語やめてよ〜、なんか私たちだけタメ口っておばさん感があって嫌じゃーん」

そう絵梨奈が言って、敬語禁止ゲームが始まった。
敬語を使ったらアルコールを飲むと言う罰ゲーム付き。遊び方が若いな〜。祐介はそんなことしないもんなぁ。そんな事を考えながら、トイレに向かう。出てくると、成瀬さんがいた。

「あ!成瀬さん。」

「二宮さん、お店ここでよかったですか?」

「とっても美味しいです!お気に入りの海鮮屋さんになりました。でもイタリアンに行きたかったんじゃなかったんですか?」

「イタリアンは今度行きましょう。」

そう言われたので笑顔で頷く。
するとまた成瀬さんが少し悲しそうな顔をした気がした。さっきの事を思い出して、

「さっき、年齢のこと聞いちゃってごめんなさい。嫌な思いしちゃったかなと思って。」

そう言うと成瀬さんは、

「そんなことないです!ただ、27歳の女性からしたら、24歳なんてガキって思われるんだろうなぁ思って…」

27歳の女性というのが、私の事か絵里奈の事かそれとも私達2人の事を指しているのかわからなかったけど、

「そんなことないですよ!若くて羨ましいです。逆に私たちの方が、おばさんって思われるんじゃないか、って心配なくらいです。」

そういうと、

「それなら良かった!おばさんなんて思わないです。二宮さんはかわ、、、」

成瀬さんは何かを言いかけていたけど、私がハンカチを落としてしまって、言葉を遮ってしまった。なんて言いかけたんだろう。そう思いながら、ハンカチを拾おうとしゃがむと、成瀬さんが先に拾ってくれた。
私は、ありがとうございます。といってハンカチを受け取ろうと、しゃがんだまま顔を上げる。そしたら思ったよりも顔の距離が近くて、体が一瞬で熱くなるのがわかった。金縛りにあったかのようにその場から動けない。成瀬さんの顔から目が離せない。私達はお互いにその場から動けず少しの間見つめ合っていた。すると成瀬さんの顔が私の方に寄ってくる。もしかして、キス、、される?唇と唇が触れるか触れないかのところで我に返る。
私はパッと立ち上がった。

「ハンカチありがとうございます。私先戻りますね。」

そう言って逃げるように席に戻った。

「遅かったねー!気分悪い?大丈夫?」

そう絵梨奈が心配してくれる。

「そういや、蓮も遅いな。」

そう片桐くんが言ったので、別にやましいことは何もしなかったないのに、鼓動が早くなるのがわかった。
さっきのは一体何だったんだろう。私の勘違いかもしれない。既婚者の3つも年上の私に、成瀬さんが興味を持つはずない。成瀬さんはただゆっくり立ちあがろうとしただけかもしれない。そんなことを考えてたら、

「ねぇ怜聞いてる?!」

そう絵里奈に言われた。

「ごめん。何だった?」

「祐介さんは今日大丈夫なの?って、悠斗(ゆうと)くんが聞いてるよ!」

「ゆう、とくん?」

誰のことだ?片桐さんかな?
いつから2人は下の名前で呼び合う仲になったんだろう。
「俺のことだよー!怜さんも俺のこと優斗って呼んでね。あ!蓮が帰ってきた。こいつのことは、蓮って呼んでね。蓮も2人のこと、絵梨奈さん、怜さん、って呼べよ!呼ばなかったら飲みだからな!」

そう言って成瀬さんの背中を叩く。

「で、怜さん、こんな遅くまで飲んでて旦那さん大丈夫なんですか?」

片桐さんが聞いてきた。

「うん、今日明日は福岡で研修会があって、帰ってこないんだ!それに、うちはお互い自由だから誰と遊んでもお互い何も言わないよ!」

私がそういうと絵梨奈が、

「だって怜は絶対浮気しないタイプじゃん。それに祐介さんは怜の事ほんと大好きだし。お互い信頼し合ってるから疑わないんだよね。」

すると、酔ってあまり喋らなくなっていた成瀬さんが聞いてきた。

「どんな人なんですか?」

私はなんて答えよう、、と考えてると、私の代わりに絵梨奈が答えてくれた。

「小児科病院の医院長なんだよ!私たちの一個上で28歳なんだけど、怜にだけは超甘えん坊で、いっつも怜にくっついてる。本当に怜のことが大好きな人だよね。2人は本当にラブラブなの。」

そう言われ、恥ずかしくなってやめてよ〜と絵梨奈に言う。
成瀬さんは何も返事をせず、ジョッキにまだ半分くらい残っていたビールを一気に飲み干した。

すると、

「年上か〜怜さんは年上が好きなのか。じゃあ俺たちにチャンスはないな!」

冗談っぽく片桐さんが言う。

「怜は昔から、年下はありえないって言ってたよね!しかも既婚者なんだから2人とも怜のこと狙っちゃだめだよー!」

絵梨奈も冗談っぽく言った。

これまで年下と出会いがなかっただけで、年下がありえないわけではないよ!そう言いたかったけど、既婚者の私がそんなことを言うのもおかしいか、と言うのをやめた。

すると片桐さんが思い出したように、

「てかさ〜蓮、お前さっき敬語使ってたよな?一気!一気!」

そう言って今来たばかりのジョッキに満タンのビールを一気させようとする。
ノリが本当に若いな〜成瀬さん大丈夫かな、さっき半分くらい残ってたビールを一気に飲んでたよな、、、心配になって私は言う。

「ジョッキを一気ってやばくない?成瀬さん大丈夫?無理しないで。」

そういうと片桐さんが、

「あー!怜さん今成瀬さんって呼んだ。蓮って呼ばないと!でも怜さん一気は可哀想だから、その残ってるやつ飲んで!」

やらかしたーーー。でもルールだから仕方ない!そう思って飲もうとすると、

「悠太、女の人にそれはないだろ。俺が飲むよ。」

そう言って成瀬さんは私のジョッキを左手に持ち、右手に持った自分のビールを飲み始めた。
多分成瀬さん結構飲んでるからきついよな。私はそう思って、何も言わず成瀬さんの手から自分のレモンサワーを取って、残りを飲み始める。
絵梨奈が心配して、

「大丈夫?あんた酒強くないんだから無理しないでよ?」

そう言うけど、成瀬さんに飲ませたくないと思って一気に飲み干した。
一気に体が熱くなるのがわかる。こんなにお酒を飲んだのは生まれて初めてかもしれない。片桐さんが申し訳なさそうに、

「なんか俺が飲ませちゃったみたいで申し訳なくなってきた。」

「ルールだから仕方ないよ!でもたまにはこう言う若いノリも楽しいね!」

私がそういうと絵梨奈がびっくりした顔で私を見た。

「怜って男友達全然いないし、こう言う飲みとかしたことないでしょ?もしかして飲みにハマった?」

「ハマってはない。たまにはこういうのもいいなって思っただけだよ!」

その後もたわいない話で私達は盛り上がった。

「そろそろ帰るか〜」

悠人くんがそういって、伝票を探す。
私が伝票を取ろうとすると蓮くんが、

「ここは俺たちが出すからいいよ。」

と、伝票を持って立ち上がる。

「え、そんなの悪いよ〜みんなで分けよう。」

って言ったけど、じゃあ今度から割り勘ね、そう言ってレジに向かって言った。
今度があるんだ。私は少し嬉しくなった。

帰りは夜も遅かったので私が蓮くんに、絵梨奈が悠人くんに送ってもらうことになった。

「じゃあまた集まろうね〜。」

そう言って私達は別れた。
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