虐められ抜いた私が悪役令嬢に転生し援軍を得て、婚約破棄してきた王子をざまぁし最高の男と結ばれるまで。
「失礼しました。あの名乗るほどのものではありません」
フローラは焦って大きな声で叫ぶと去って行った。
尻尾を巻いて逃げるような彼女を見て、少し驚いた。

白川愛は地元の名士の娘で、教師も彼女に気をつかっていた。
彼女は人心掌握の天才だった。

彼女が私を虐めると決めた日から、周りはみんな私が人であることを忘れたように虐めだした。
フローラに憑依した彼女が逃げ出すような姿を初めて見て、少し気が抜けて体が傾いた。

その時、突然体が浮いたような感覚を覚えた。
「わ、すみません。あの、国王陛下の元に行くのですよね」
気がつけばサイラス王太子殿下にお姫様抱っこをされていて、慌てて私は彼の首にしがみつく。

「私がお連れしますよ」
サイラス王太子殿下の美しい顔が近くにあって、私は心臓の高鳴りが抑えきれない。

「待ってください、このような格好で会場に戻ってはならない気がするのです」
私を抱えたまま歩き出す彼に必死にアピールするも、彼は私に微笑みだけを返してくる。

舞踏会会場に戻ると思ったのに、なぜだか王宮の外にとまっている馬車に乗せられた。
「どうぞ、ごゆっくりしてください。2日くらいは馬車に乗りっぱなしになります」
私の隣に座ってきた、サイラス王太子殿下の意図が分からず私はうろたえてしまう。

「ルイ国まで急ぎなさい」
彼の指示で馬車が発進して、ルイ国の護衛騎士たちがついてくる。

「建国祭はあと4日続きますけれど帰ってしまうのですか?レイラ王女は置いてってしまうのですか?」
急な展開に頭がついて行かず、私はサイラス王太子殿下に矢継ぎ早に尋ねる。

「実は、なぜ私がこれほどイザベラ様に惹かれたのかが分かりました。あなたは異世界から来た方ですか? 絶対に10歳ではありませんね。落ち着いていて、澄んだ海のような心をしています。そして、あなたは誰より傷ついてきた方だ。だから、人の気持ちをいつも考えて思いやりと優しさに満ちている。今まで、どのような女性にも興味が湧きませんでした。どうして、あなただけは特別なのかが分かりました。あなたを見守る作戦から、手放さない作戦に変更することにしました」

「サイラス王太子殿下は、異世界の存在を知っているのですか?」
私は彼があっさりと異世界の存在を口にしたことに驚きを隠せない。

「知りません。でも、先ほどのピンク髪の女性の発する言葉には知らない単語がたくさん出てきました。赤信号、東京、定期など何を言っているのかわからず、不審人物だと思いました。しかし、イザベラ様はそれを理解していた。私はピンク髪の女性は信用していませんが、あなたのことは信頼しています。だから、彼女とあなたは知り合いで、私の知らない世界から来たのではないかと予想しただけです」

サイラス王太子殿下の優しい微笑みに、思わず私の溢れていた不安の涙は止まった。



< 15 / 32 >

この作品をシェア

pagetop