都合のいいオトコ

ふりだしに戻る


その週の土曜日、遊園地は冬休みを迎える準備で忙しかった。

私が担当しているイベントホールも、新しい催しに切り替わるため、朝からずっと、大勢の社員さんらが入り浸ってたし、私らスタッフも大掃除やグッズ運びでクタクタになってた。

「マイちゃんお疲れ様!」

「シイちゃん! お疲れ様ぁー」

園内放送を担当するシイちゃんも、事務所で備品確認を手伝ってたそうで、私たちは久しぶりに顔を合わせた。

「そういや、戸田さん今日イベントホールに来てたけど、口説いてこんかったで」

「あ、やっぱりマイちゃんにもそうなんや? 券売の子も同じこと言うてたわぁ」

「本命ってあの子やろ? 売店におる、ショートカットの背が高い子」

「やと思う。この前、ふたりでサッカー観にいったらしいよ!」

「あっ! その話、社員さんらから聞いたっ」

女の子が大好きな戸田さんが、誰彼構わず口説くのをやめて、本命の子といい感じになってる。

園内スタッフの間で、その話は、ちょっとしたニュースやった。

「放送の部屋から売店が見えるんやけど。戸田くん、集金のときも顔が真っ赤っかなん」

「マジでー? なんかいいなぁ。いじらしくて」

女の子みんなにヘラヘラしてた人が、本命を前にしたら緊張してガチガチになる。そんな話を聞くと、相手の売店の子が羨ましくなる。

自分もそんなふうに、一生懸命に想われてみたい。そんな気持ちを抱いてしまう。
< 75 / 142 >

この作品をシェア

pagetop