王子様はマーメイドを恋の海に溺れさせて
 私は間違った事は言っていないはず。何事も正直に振る舞えば良いと限らないが、やはり仕事には真摯でありたい。それをフェアプレーの精神だとからかうの? 眉間にシワが寄っていく。

「勘違いしないで。僕は好ましいと思っているんだ、結城さんのそういう性格が。偽れない事でご苦労も沢山あったでしょう?」

 これは引退後の身の振り方をさす。解説者や芸能関係のオファーを断り、島へ戻ったのは母の為であるが、仮に表舞台に立ち続けたとして上手く立ち回れたかは疑問だ。

 西園寺氏が言うよう私は忖度が出来ない。証拠に今、プライベートな問題へ踏み込む彼に嫌悪を示している。

「回りくどい真似はよして、不問にする代わりにパーティーの参加を命じれば早いのでは?」

 花梨ちゃんの不調を失態と言いたくない。花梨ちゃんが庇ってくれるのは有り難いものの、責任は私が果たす。

「ですから勘違いしないで下さい。僕は貴女の敵じゃない。命令や強制をして行動をさせるのではなく、友人の一人として招待したいのです。はは、こんなにも警戒心を露わにされるなんてショックだよ。はぁ、どうしたものか」

 西園寺氏は頬を掻き、乾いた笑いを浮かべた。花梨ちゃんを守らねばという使命感が彼を圧したのかもしれない。

「あ、そうだ! パーティーに行きたくってもドレスが無いですしねぇ!」

 関係を悪化させない、らしい言い訳をしてくれる花梨ちゃん。

「そ、そうね! お呼ばれするにも衣装がないと」

 間髪入れず相槌を打つ。

「とっても行きたいんですけどぉ、諦めます。今日はありがとうございました! すいませんでした!」

 花梨ちゃんは響き渡るボリュームで告げ、私の手を引くと場を後にする。

 世界のセレブ相手にとんでもない態度を取ってしまった罪悪感で、歩幅が大きくなりスピードも早まるのは言うまでもなかった。
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