おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
 メグは一声かけてからシュゼットのベールに手をかけた。

 帳を取り去るようにふわっと頭から薄布が持ち上げられる。
 半透明にふさがれていた視界がさっと開けて、辺りが鮮明に見えた。

(明るい……)

 支度部屋を流し見たシュゼットは、顔を正面に戻した。
 そして、鏡に映る自分を見つめて、やるせない息をこぼす。

「相変わらず醜いですね」

 シュゼットの額からこめかみにかけて、大きな傷が走っていた。

 怪我をしたのは幼い頃なので、傷はすっかりふさがっている。
 しかし、何針も塗った皮膚は引きつれ、赤く変色した部分はなめした革のようになまめかしく光った。

 こんなに醜い人間を、シュゼットは他に知らない。

 女性は外見以外で評価されることがあまりない。
 容姿の不利はそのまま人生に反映される。

 シュゼットが家族からの仕打ちを甘んじて受けていたのも、この傷跡からくる自己否定の気持ちを拭えなかったからだ。

 自分が嫌いだから、屋根裏部屋には鏡がなかった。
 顔を見るたびに、胸の奥にたまった澱がさらに濃くなってしまうから。

 こんなに醜いのだから見下されて当然だと、自分で自分を踏みつけてきた。

 シュゼットは傷跡に指をはわせてため息をつく。

「私では美しい装いが台無しです」
「何を言ってらっしゃるんですか。この傷のおかげで王妃になれるんですから感謝しなければいけませんよ」

 特注したファンデーションを練るメグに、小さく頷く。

 ジュディチェルリ家は政治的に力のある家系ではない。
 カルロッタの縁談さえまとまっていないのに、妹の結婚が優先されるのも外聞が悪い。

 それなのに国王がシュゼットを花嫁に迎えるのは、大人になっても傷跡が消えないほどの大怪我を負わせたのが彼だからだ。

(怪我をしたときのことはよく覚えていないんですが……)
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