おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢は姉の婚約者だった次期公爵様に溺愛される
前王の死後、即位したアンドレはシュゼット・ジュディチェルリとの婚約を一方的に破棄しようとした。
それを止めたのがラウルと宰相――ラウルの父ルフェーブル公爵だ。
名君として大勢の人に慕われた前王が遺した婚約をあっさり破棄するのは、親の威光を捨てるのも同じこと。
国王が各領地を治める領主貴族の頂点に立つことでフィルマン王国は保たれている。
ただですらアンドレは問題行動が多くて評判が悪い。
アンドレがシュゼットを捨てれば、約束を反故にする信用ならない王だとみなされて、貴族に反逆の意思を持たれかねない。
必死の説得のおかげでアンドレは婚約破棄を思いとどまってくれた。
しかし、シュゼットとの面会や式の準備には乗り気ではなく、ラウルが強制的に連れて行った。
大人しくしてくれれば、その分、政務を肩代わりするという条件を出して。
結果的に、アンドレはほとんど仕事をせずに遊んで暮らし、ラウルが代理王として国を動かしていた。
おかげで残業の毎日だ。
騎士団の稽古には参加できず、ルフェーブル公爵家に帰れるのもよくて三カ月に一度。
あとは宮殿に泊まり込む生活が続いていた。
(いや、忙しいのはそれだけが理由ではないが……)
王子様育ちのアンドレは、人の苦労を少しも理解していない顔で自分を正当化する。
「初夜だからって好みじゃない女は抱けないよ。お前もそうだろ? カルロッタの元婚約者」
「……昔の話です」
ラウルはふいと顔を背けた。
あの女との過去は思い出したくもなかった。
険しい横顔を、アンドレはあぐらに頬杖をついてながめる。
「悪いのは僕じゃない。カルロッタの方がいいって言ったのに、妹の方と結婚させたラウルが悪いよ」
「王妃殿下に怪我を負わせたのは貴方だ。責任を取るのは当然でしょう」
「子どもの頃のことなんか覚えてないよ。向こうだって記憶にないはずだよ。女か男かも分からない、赤ちゃんだったじゃないか」
初夜に浮気したことも、シュゼットに怪我を負わせたことも、少しも気にしていない。
責任感のない姿に、ラウルはふつふつと苛立った。
「貴方は本当にそれでいいんですか。自分の妻が、自分の行いで傷ついているのに」
「僕だって無理やり結婚させられて傷ついてるよ」
アンドレは「これでおしまい」とお説教を切り上げて、うーんと伸びをする。
「夫婦の寝室には行く気がなくなっちゃった。カルロッタは客間に戻ったんだよね。今日は彼女のところで眠るよ」
「あんな女を宮殿においておけません。王妃殿下の両親ともども、ジュディチェルリ家に強制送還します。今晩は王妃殿下も心の整理がつかないでしょうから、アンドレ様の部屋を別に用意させます。ここで待っていてください」
そう言い放ってラウルは廊下に出た。
後ろからアンドレの「一人寝かよ」という非難が聞こえてきたが無視する。
(どうしたらアレを反省させられるんだ)
ラウルの脳裏に浮かぶのは、シュゼットがこぼした清らかな涙だった。
彼女は無事に眠れただろうか。
せめて安らかな眠りがそばにあるように、ラウルは神に祈った。
それを止めたのがラウルと宰相――ラウルの父ルフェーブル公爵だ。
名君として大勢の人に慕われた前王が遺した婚約をあっさり破棄するのは、親の威光を捨てるのも同じこと。
国王が各領地を治める領主貴族の頂点に立つことでフィルマン王国は保たれている。
ただですらアンドレは問題行動が多くて評判が悪い。
アンドレがシュゼットを捨てれば、約束を反故にする信用ならない王だとみなされて、貴族に反逆の意思を持たれかねない。
必死の説得のおかげでアンドレは婚約破棄を思いとどまってくれた。
しかし、シュゼットとの面会や式の準備には乗り気ではなく、ラウルが強制的に連れて行った。
大人しくしてくれれば、その分、政務を肩代わりするという条件を出して。
結果的に、アンドレはほとんど仕事をせずに遊んで暮らし、ラウルが代理王として国を動かしていた。
おかげで残業の毎日だ。
騎士団の稽古には参加できず、ルフェーブル公爵家に帰れるのもよくて三カ月に一度。
あとは宮殿に泊まり込む生活が続いていた。
(いや、忙しいのはそれだけが理由ではないが……)
王子様育ちのアンドレは、人の苦労を少しも理解していない顔で自分を正当化する。
「初夜だからって好みじゃない女は抱けないよ。お前もそうだろ? カルロッタの元婚約者」
「……昔の話です」
ラウルはふいと顔を背けた。
あの女との過去は思い出したくもなかった。
険しい横顔を、アンドレはあぐらに頬杖をついてながめる。
「悪いのは僕じゃない。カルロッタの方がいいって言ったのに、妹の方と結婚させたラウルが悪いよ」
「王妃殿下に怪我を負わせたのは貴方だ。責任を取るのは当然でしょう」
「子どもの頃のことなんか覚えてないよ。向こうだって記憶にないはずだよ。女か男かも分からない、赤ちゃんだったじゃないか」
初夜に浮気したことも、シュゼットに怪我を負わせたことも、少しも気にしていない。
責任感のない姿に、ラウルはふつふつと苛立った。
「貴方は本当にそれでいいんですか。自分の妻が、自分の行いで傷ついているのに」
「僕だって無理やり結婚させられて傷ついてるよ」
アンドレは「これでおしまい」とお説教を切り上げて、うーんと伸びをする。
「夫婦の寝室には行く気がなくなっちゃった。カルロッタは客間に戻ったんだよね。今日は彼女のところで眠るよ」
「あんな女を宮殿においておけません。王妃殿下の両親ともども、ジュディチェルリ家に強制送還します。今晩は王妃殿下も心の整理がつかないでしょうから、アンドレ様の部屋を別に用意させます。ここで待っていてください」
そう言い放ってラウルは廊下に出た。
後ろからアンドレの「一人寝かよ」という非難が聞こえてきたが無視する。
(どうしたらアレを反省させられるんだ)
ラウルの脳裏に浮かぶのは、シュゼットがこぼした清らかな涙だった。
彼女は無事に眠れただろうか。
せめて安らかな眠りがそばにあるように、ラウルは神に祈った。