おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢が最後に手に入れたのは姉の婚約者だった次期公爵様でした

3話 愛される姉と虐げられる妹

 シュゼットは重い荷物を抱えて屋敷を歩いた。
 家族が集まる居間の前を通りがかると、中からカルロッタと両親の声が聞こえてきた。

「お父様、お母様。あたし、さっきシュゼットに服を恵んであげたのよ」

 半端に開いた扉からのぞく。
 暖炉にあたる両親に、カルロッタが自慢げに話しているところだった。

「ドレスもショールも目につく物はみんな《《譲って》》あげたわ。あの子ったら、いつもみっともない格好をしているんだもの。これで少しはマシになるはずよ」

 みっともない服ばかり着ているのは、おさがり品しか寄こさないカルロッタのせいでもあるのだが、両親はそんなことはお構いなしに愛娘をおだてた。

「カルロッタは優しいなあ。あんな気味の悪い子にもちゃんと接してあげて。なあ、母さん?」
「そうね。カルロッタは、さすがジュディチェルリ侯爵家の娘だわ。それに比べて、シュゼットはどうしてあんな風になってしまったのかしら。陰気で、汚くて、屋敷の外へ出すのが恥ずかしいわ。あんな子、産まなければよかった」

 陰口をたたく三人から視線を外して、シュゼットは廊下を進んだ。

 家族にないがしろにされるのはもう慣れた。
 胸がうずくのは、きっと朝食べた固いパンが少し悪くなっていたからだ。

 きっと、そう。

 そう言い聞かせないと、自分がカルロッタたちのいうみっともない存在になってしまったような気がする。

 生まれも、育ちも、今ここにいるのも何もかもが間違いで、本当は生きていてはいけない存在なのではないかと、自分を否定しそうになる。

(いけません)

 シュゼットは首を振って、嫌な考えを振り払った。

 陰気なのは事実だけれど、それは性格のうちだ。
 世の中には、カルロッタのように自己肯定感に満ちあふれた人間もいれば、シュゼットのように心に重たい感情を抱えた人間もいる。

 こんな自分だって、生きていてほしいと願ってくれる人が、どこかにいるかもしれない。
 だから、なげやりになってはいけないのだ。

 ほこりっぽい使用人通路へ入ってどんどん奥まった方へ進む。
 屋敷のはしまで行くと、人目をはばかるように長い長い木のはしごがかけられていた。

 シュゼットの自室はこの上。
 薄暗い屋根裏部屋なのだ。

「ふう……。落っこちなくてよかったです」

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