おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢が最後に手に入れたのは姉の婚約者だった次期公爵様でした

26話 好きの気持ちは止められない

 それはシュゼットが大好きな作家の名前だった。
 なぜか隣の青年が反応して、カウンターに向かう。

(まさか)

 ひるがえるコートを追って、シュゼットは本棚の陰から陰へと移動した。
 身を乗り出してこっそりうかがうと、ガストン先生が青年に管理簿を見せている。

「残念ながら、お探しの資料はここにはない。見ての通り、個人がやっている小さい図書館じゃ。王立図書館と違って、公的な記録はほとんど入ってこないものなんじゃよ。そちらを探してみてはどうかね?」

「実はもう探してみたんです。他にも大きな図書館を回って見つけられなかったので、下町にあるこちらに紛れ込んでいるのではと来たんですが……。ないとなれば仕方ありませんね。調べていただいてありがとうございました。よければこれを寄付させてください」

 青年は一冊の本を手渡してカウンターを離れた。
 そのまま出入り口に向かっていくので、思わず彼の前に飛び出す。

「待ってください!」

 両腕を広げて通路を塞ぐシュゼットに、青年は片方の眉を上げた。

「……何か?」
「え、エリック・ダーエ先生でしょうか? 恋愛小説家の!」
「ああ、名前を聞いていたのか。そうだが」

 青年――エリックは隠す素振りもなく頷いた。

「あなたが……!」

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