おさがり姫の再婚 虐げられ令嬢が最後に手に入れたのは姉の婚約者だった次期公爵様でした
 シュゼットがぎくしゃくした様子で受け取ったので、メグは不思議そうだ。

「誰からのお手紙ですか?」
「お、お友達です。孤児院のお手伝いをしている時に仲良くなった人なんです!」

 メグには言い訳する必要はないのに、つい誤魔化してしまった。

 彼女もエリック・ダーエの熱狂的な愛読者だ。
 もしもこの手紙が作者から送られてきたと知ったら、悪意なく内容を聞き出そうとするだろう。

(ごめんなさい、メグ。これだけは私一人で読みたいんです)

 ダーエの小説はみんなのもの。
 けれどこの手紙は、エリックがシュゼットにだけ向けて書いてくれた、いわば彼とシュゼットが確かに出会ったと証明するものだった。

 心の中で謝って、手紙を胸に当てる。
 シュゼットが一人で手紙を読みたがっていると察したメグは、眠る支度を手早く終わらせて出て行ってくれた。

 一人で寝室に入ったシュゼットは、ベッドに座って読書灯に便箋をかざした。


 『親愛なるシシィ様
  あなたからの手紙を待ちきれずペンを取りました。
  思いつきから訪れた図書館で自分の読者に会えるとは思っていませんでした。
  小鳥のように可愛らしく、そして善良なる愛読者に出会えたことを神に感謝します。
  渡した本があなたを楽しませていたなら幸せです。
  迷惑でなければまたその美しい声で感想を聞かせてください。
                        あなたに愛されし小説家より』

 恋愛小説家らしい、うっとりするような文章だった。
 三度も読み返したシュゼットは、ぽうっとのぼせてベッドにひっくり返る。

「……ダーエ先生から、じきじきにお手紙をいただいてしまいました……」

 胸が高鳴っているのは、憧れの人に手が届いたから?

 それとも……。

(お返事を書かなければ。でも、今だけはこの気持ちに浸っていたいです)

 その晩、シュゼットは手紙を抱きしめたまま眠った。

 夢の中にエリックは出てこなかったけれど、満たされた気持ちで休めた久しぶりの夜だった。

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