暗闇だから、怖くなかった
森家の自宅にて



 私は榊原さんをお店まで連れてくると、母屋に上げて作り置きしていた料理を盛大に振る舞った。食べ放題かと思えるほど出して、自分もお腹いっぱいになるまで食べた。

 どうしてこんなに食べられたんだろうと自分でも不思議だ。場の空気? テンション? そういうのに後押しされたのかもしれない。

 私以上に、たぶん私の三倍は食べただろう榊原さんはゆっくりお茶を啜っていた。私は苦しいのに、しれっとした顔をしているのが何故だか憎らしい。


「榊原さんて健啖家なんですね」

「全然、普通ですよ」


 彼は笑って「同僚の川口のほうがめちゃくちゃ食べます」と言い切った。その“めちゃくちゃ”の言い方に力がすごく入っていて、私は目を細めた。


「そんなに食べるんですか?」

「焼肉の食べ放題で元とってます」

「すごいですね」


 私は顔もわからない同僚の人を思い浮かべる。空の皿が塔のように積み重なる中で、その人は一心不乱に肉を口に運んでいる……。


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