暗闇だから、怖くなかった
榊原兄妹の自宅にて──Side 榊原 洸平



 俺はあの後どうにか帰宅した。

 妹は俺の顔をひと目見て、黙って水を用意してくれた。いつもは口うるさいのに、こういうときは察して踏み込まないでいてくれる。ありがたい。

 その日は早々に寝て、ショッピングモールに出勤した。


「割引券あるから使っちゃおう」

「年賀状あと何枚買うんだっけ?」

「今日は夜から雨だって」


 今日は出入り口付近での警備担当で、最も混雑する場所なだけあって普段以上に気を抜けない。俺は不審な人物が入ってこないよう監視しながら、ある決意を抱いていた。


「すみません、ちょっと聞きたいんですけど……良いですか?」


 小柄な中年の女性が小走りで寄ってきた。ここに入っているはずの洋菓子店が見つからないのだと言う。

 調べてみると、その店はこのショッピングモールから撤退していることがわかった。それを率直に伝えると、彼女は肩を落としながらも礼を言ってくれた。


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