アイドルしてる君には。

2話

「ねーえ、優愛!みた?connectの新曲!!」
友達の安達美琴(あだち みこと)は毎日のように紘くんがセンターを務めるアイドルグループconnect(コネクト)の話題を出してくる。

「みてないよー。そんなことより宿題やったー?」
「もー、優愛、ノリ悪っ!」

半年経った今でもやっぱり、紘くんのアイドル姿を見るのは辛い。紘くんはいまや一世を風靡するトップアイドル。そのせいで学校中で紘くんたちの話が飛び交っている。

「てかさー紘くん昨日のテレビ番組でさ、好きなタイプ聞かれてたよー?」
「え、、そうなんだー」
「気になるでしょーお?」
「いや、別に、、」

「イタズラしたくなるようなおっちょこちょいな女性、だってよーー?優愛のことじゃなーい?」
そう言いながら美琴は私のことをツンツンしてくる。

「やめてよー。そんなわけないでしょ?」笑いながら誤魔化したけど、、。本当にそんなわけがない。
自分が一番分かっている。

「え、てかさ!逆に優愛はどういう人がタイプなの?!」
「私は、、、頼りになる人かな?」
「へーーえ。案外普通なんだね笑」

あ、そうだ。バイトだから早く帰らなくちゃ!
「ごめん美琴!先帰るね!バイバーイ!!」

私は近所の焼肉屋さんでバイトをしている。変にオシャレなカフェで働くより自分の身の丈に合っている感じがするし、バイト仲間の人も年上の大学生が多くてすごく居心地が良かった。


、、、、と思っていたのに、、、昨日からクラスメイトの加藤利乃(かとう りの)くんが突然ここでバイトをはじめたのだ。加藤くんと言えば、無口で冷徹なのにも関わらずモテモテの勝ち組だ。
クラスメイトなのに一度も喋ったこともないし正直気まずい。
まあ、加藤くんにとって私はそこら辺の空気と同じような存在だから覚えられてもいないだろう、、。


2.バイト中
今日のバイトは団体客が二組ととてつもなく忙しい。
「すいませーん、ビールまだー!??」
「おーーい、早くしろよー!」

「申し訳ございません!今ご用意します!!」

あーーどうしようどうしよう、人手不足すぎる。

       
       ガーシャーーン!!
「すみません!!!」
慌ててジョッキを運んでいたせいで、お客さんとぶつかってお水を床にこぼしてしまった。


「お姉ちゃんさーさっきからそそっかしいけど大丈夫ーー?お詫びに俺らとちょっと飲もーよー、なあ!?」
そう言って20代くらいの男性たちに腕を掴まれた。
「すみません、仕事中なので、、。」

「そんなこと言わずにさー」
ぐいっと腕を引かれた瞬間、、、体勢を崩してお客さんの膝の上にお酒をぶちまけてしまった。

「あ、す、すみません!!」
「あーあ、これどうしてくれるの?!なあ!?黙ってねえで答えろよ!!」


「いい加減にしてもらっていいすか?他のお客さんの迷惑なんで。」
「あぁ!?」
「そろそろ通報しますよ?」

後ろを振り返ってみると、、そこには冷たい目でお客さんを睨みつけている加藤くんがいた。

お客さんは観念したのかそそくさとお店を後にした。
その後やっとのことで閉店時間を迎え、後片付けの時間となった。

「あ、加藤くん、、さっき助けてくれてありがと。」

「あ、いや、、まあ、、気をつけろよ?」
加藤くんは何故かキョロキョロしながらぼそっとそう呟いた。
加藤くん、、意外と優しいんだ、、!

「あーーあのさ!もし良かったらお礼に何か、欲しいものとかある?」
、、、、加藤くんは目を見開いて私のことを見つめているだけだ。
「加藤くん、、、?」
「じゃあ、一緒に」
「一緒に?」
「修学旅行の班!一緒になって欲しい。」

え、なんで?え、なんで?なんで加藤くんが私なんかと、、、
「嫌なら別にいいけど、、」
「全然嫌じゃないよ!むしろなんでかなーって思って。ほら加藤くん友達たくさんいるからなんで私なんかと、、」
「いや、、ほら。、、心配、、だから」
「はぁえ?」

「谷口ドジだから、今日みたいになんか事件起こしそうだから、、」

「あーーえーーそういうことー?ありがとね!」
愛想笑いで誤魔化してみたが、、全く意味がわからない。加藤くん、わざわざ私のために?それって私、ただの迷惑女じゃん!

3.帰り道

「谷口!もう遅いから駅まで送ってくよ。」
「えぇ!?!?いやいやいいよいいよ、、、加藤くんそんな私に気遣わなくていいって!!」

「、、、心配!だから、、」
「あーーあ、ありがとうね!じゃあ、、お言葉に甘えてー、、」
心配とか言われたら上手く返せなくて、結局送ってもらうことになってしまったがやばい、気まずすぎる。

「谷口、バッグここ入れていいよ」
そういうと加藤くんは有無を言わせず私のバッグを引っ張って加藤くんの自転車のカゴに入れてくれた。
「ありがと、」
「加藤くんってさ、もっとツンツンしてる感じかと思ってた。てかわたしの名前なんか知らないと思ってたよ」
「ツンツンってなんだよ。てかクラスメイトの名前くらい覚えてるに決まってんだろ、特にお前はっ、、」
はにかみながらそういった谷口くんの笑顔、、これはずるい。これはみんながメロメロになる理由がわかる。

、、てかなに、、?特にお前はって。私のこと?
「なになに、特にわたしはってなに?」

          キュッ!!
私がそう聞いた瞬間、谷口くんは自転車を押すのをピタッとやめて立ち止まった。
「いや、違くて。なんか、なんとなく?っていうか思いつきで言っちゃったっていうかまあその場のノリだよ!!!」
ものすごく動揺して顔を赤らめている。
私なんか嫌なこと言っちゃったかな、、。

そうこうしているうちに駅に着いた。
「あー今日はいろいろありがとね!ほんと助かった!じゃあね、、、」

「じゃあ、また明日。」
「うん。」
谷口くんは少し恥ずかしそうに下の方で手を振ってくれた。改札に入り振り返ると谷口くんはまだ私の方を見てくれている。
谷口くんすごい心配性なのかな、、、私が困らせちゃってたなら申し訳ない!!そう思って私は小走りでホームへの階段を駆け上がった。
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