16歳年下の恋人は、そう甘くはなかった
「マヤ?もしかして、疑ってた?これからマヤと結婚するのに、しかも、妊娠までしてるのに、オレがそんなことをする男だと、ちょっとでも疑ったんだ?」

冷たい響きを含んだトオルの声に、胸がチクリと痛む。

「そんなわけない。でも、写真まで見せられたら、やっぱり確認したいでしょ」

「勝手にマンションまで来て、いきなり抱き着かれただけ。何もやましいことはないと断言できる。でも、マヤはオレのことを疑ったんだね…」

「だから!疑ってるんじゃないけど、脅されたんだよ。その女性の夫から」

「え?…どういうこと?」

「私の中学の時の同級生だったの。偶然にも。その彼が、トオルに別れるよう説得してくれって。じゃないと、マスコミに告発するって」

最後の言葉は直接言われてはいないが、上村はそう仄めかしていたのだ。

「別れるも何も。付き合ってないし!その同級生って男の人と会って話したの?」

「うん。大阪に来た」

「・・・」

しばらく沈黙があった。嫌な予感がした。

「で、二人で会ったんだね」

警察の尋問のようなトオルのその口調は、氷のように冷たかった。

「その話をするためにね」

「そう…」

トオルはしばらく黙り込んでいたが、ふと電話の向こうからトオルを呼ぶ声が聞こえた。

「あ、はい」

トオルがそちらに向かって返事をしてから、言った。

「オレ、もう行くよ。とにかく、そんな話はでたらめだから。その人にそう伝えて」

通話はそれで切れた。

トオルが機嫌を損ねてしまったのは明白だった。 
マヤ自身、疑っているつもりはなく確認したかっただけなのに。だけどやはりそれは疑っている、ということだった。

トオルの不機嫌を引き起こす原因がもう一つあった。
トオルは以前からマヤの身辺にいる、親以外の男性全員に焼きもちをやく。
会社の上司が同年代の男性だと知った時は、かなり気にしていた。
マヤとの年齢差は全く気にしないくせに、自分より年上の、特に四十代以上の男は妙に意識していたりするのだ。

「大人の男には太刀打ちできる自信が無い」

と、以前ポツリと言ったことがある。
だから、上村と会ったことも気に食わなかったのだろう。
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