【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

1 小崎くんと川村さん


⚪︎場所:学校の正門〜昇降口までの情景
(主人公・川村(かわむら)結莉乃(ゆりの)のモノローグから)

 ──何をやっても平均点。これといった特技もなく、容姿も平凡、成績も普通。
 ──将来の夢や目標も特にない。平凡で普通で、目立たず謙虚に慎ましく。穏やかに日々を過ごせたらそれでいい。
 ──私はずっと、そう思っていた。

→容姿の描写。栗色のボブカットに、小柄な体躯。
(ピアスやネイル、化粧などはしていない)
(まだハッキリと顔は映さず、主人公の一部の描写を数カット)

向かいの下駄箱からモブ女子の会話が聞こえる。

女子生徒A「ねえねえ、見た? 渡り廊下に小崎(こざき)くんたちいたよ」
女子生徒B「うそー! 私も見たかった! めちゃくちゃイケメンだよね、小崎くん!」

中履きのスリッパに履き替えながらそんな会話が耳に届き、『小崎くん』という名前に反応した結莉乃の動きがやや止まる。
→結莉乃は少し焦っているような、汗が滲んでいるような描写。

女子生徒A「分かるー、アイドルみたいな顔立ちだよね。背も高いし。先輩後輩関係なく、しょっちゅう告られてるらしいよ」
女子生徒B「いやあ、さすがは学年一のモテ男・小崎(すい)! あれぞ一軍グループのリーダーだよねえ」
女子生徒A「ほんと見てるだけで目が潤う~」

女子生徒C「……でもさあ、小崎くんって、ちょっとヤバくない?」

その時、キャッキャしていた女子たちの会話の中で、一人だけが神妙に声をひそめる。
するとそれまで黄色い声を上げていた女子たちも顔を見合わせ、苦笑い。

女子生徒A「あー……〝アレ〟ね……」
女子生徒B「いやほら、人間ってさ、誰しも少しは欠点があるから……」
女子生徒C「でもさあ、アレはさすがにやばくない? 見たことある? 小崎くんが絡んでるところ。ちょっと時々可哀想になるよ、あの子(・・・)

→『あの子』の部分で、そ〜っとその場から逃げ出そうとする結莉乃の後ろ姿。

女子生徒A「あー、あの子ね。二組の。おとなしそうな地味な子」
女子生徒B「名前何だったっけ?」
女子生徒A「えーっと、たしか──」

小崎「──川村さん」

ビクッ!(結莉乃の肩が大袈裟に跳ねる)
恐る恐る振り返り、ここで初めて結莉乃の顔がハッキリと描写される。

振り返った先には、派手な見た目の生徒たち。(男女混合、ピアスとかつけて派手な印象)
→先頭にいるのが小崎。
→少々怖そうな雰囲気(不良っぽい)で描写。

女子生徒A「……あ。あの子だ。川村さん」
女子生徒B「あちゃー。さっそく小崎くんに見つかっちゃってる……」

同情した表情で結莉乃を見る女子たち。
一方、結莉乃は青ざめている。
→あっという間に派手な軍団に囲まれる。

ギャル「あは、ウケる。めっちゃ震えてんじゃん川村さん」
男子「おーい、怖がられてんぞ、翠」
小崎「えー、心外だなぁ。俺ヒドいことしてないのに」

怖そうな雰囲気で結莉乃を壁際に追い詰める小崎。
結莉乃は怯えた表情で震えている。

小崎「ねえねえ、川村さん。ちょっとおいでよ。俺とお話しよっか」
結莉乃「い、いや……っ、来ないで!」

結莉乃、逃げる。

小崎「おいおい逃げんなよ」

不適な笑みを浮かべて小崎は追いかける。
→遠ざかっていく二人を眺め、友人たちは肩をすくめる。

ギャル「あーあ、可哀想にね川村さん。翠に目ぇつけられて」
男子「翠、見た目はイケメンだけど、本性はマジでやべえからな……」

不穏な感じでひそめき合い、友人たちは小崎と結莉乃を見送った。


〈場面転換〉

⚪︎場所:非常階段の踊り場

追い詰められた結莉乃。
小崎は不適に微笑みながらじわじわ近づいてくる。
→壁際で壁ドン。

小崎「さて、もう逃げられないけど。どうする? 川村さん」
結莉乃「……っ」
小崎「ほんと、川村さんって学習しないよね。ひとけのないこんな場所に、俺を連れてきちゃってさあ」

楽しげな小崎の声。
どく、どく、結莉乃の心臓が早鐘を打つ。

小崎「……このまま俺に、〝好き勝手〟にされちゃっても、文句言えないよね?」

いびつに上がる口角。
→ヤンデレっぽい雰囲気。
壁に追い詰められた結莉乃の耳元に、甘い色香を帯びた囁き。

結莉乃(ああ、だめだ。また、始まる)
(彼の、いつもの……悪い癖が……!)

小崎「川村さん……」

しなやかな指が結莉乃の頬に触れる。
何やら艶っぽい危ない雰囲気。

しかし、むにっと結莉乃のほっぺを摘んだ瞬間、突如小崎が豹変する。


小崎「──っっはぁぁぁ〜〜!! 川村さん、マジで世界一かっっっわいいい〜〜!!」


幸せを噛み締めるような表情で、声高らかに叫ぶ小崎。
→死んだ魚のような目で彼を見る結莉乃。

結莉乃の両頬は小崎の手につままれ、もにもにと執拗に揉み込まれる。
髪も巻き込まれてぐしゃぐしゃに撫で回される。
→ほっぺと髪を揉みくちゃにされた結莉乃は感情のない顔で小崎を見ている。
(頬を赤らめて瞳をキラキラさせている小崎に対し、結莉乃はシラけているような感じ)

小崎「あ~~~っ、まじで可愛い、お顔ちっちゃ〜! 何このほっぺ! もはやシュークリームじゃん、食べたら何クリームの味する!? カスタード!? ホイップ!? どうにしろ川村さんは甘くておいしいスイーツってこと!? 解釈ド一致〜〜!! スイパラコラボとかあります!?」
結莉乃「ないです」
小崎「はあんっ、その冷たい視線も良きすぎる! さすが川村さん、俺の生きる糧、最愛の人、まじ同じ時代に生きててくれてありがとう好き好き大好き長生きしてください俺が一生かけて川村さんに貢ぎます」
結莉乃「結構です」

デレッデレに頬を緩めまくってマシンガンのごとく早口になる小崎に辛辣な対応をする結莉乃。
→呆れ顔のままモノローグ。

〈モノローグ〉

 ──学年でもトップの座を争うであろう、超絶イケメン・小崎翠。
 ──頭もいいし、運動もできて、超絶モテる。
 ──しかし、彼の真の本質は、見ての通り……とにかく私を溺愛している、残念なイケメンなのである。

〈モノローグおわり〉

遠い目をする結莉乃は、眉間を押さえて嘆息。
※小崎はまだ騒いでいる。

小崎「あ〜〜っ、川村さん可愛い! 天使! パーフェクト! この世に産み落とされた奇跡! 五感のすべてで君を感じたい!」
結莉乃(うう……胃が痛い……そりゃ周りのみんなは私を『可哀想』って思うよ、こんな変人に毎日絡まれてるんだもん)
小崎「はぁぁ、川村さん癒し、ほんと可愛い……俺が一生守るよ、たとえ世界が終わっても川村さんの体内で循環する酸素の変わりになって天寿を真っ当させてみせるからね」
結莉乃(しかも思想がだいぶやばいしコイツ)

深いため息。
小崎はずっとへらへら溺愛。

結莉乃「……あの、小崎くん。本当にね、毎回言ってるけど、学校でこういうのは目立つからやめていただきたいというか……あまり関わって欲しくないというか……」

ほっぺをいじられながら苦言を呈す。
しかし、小崎は余裕ある態度のまま引かない。

小崎「やだよ。俺ら恋人同士(・・・・)じゃん。イチャイチャして何が悪いの」
結莉乃「でも、私たち、『お試し』の恋人でしょ……」

じとりと小崎を不服げに見る結莉乃。小崎は笑う。

小崎「だからこそ、でしょ。俺ら、『恋人試用期間中』なんだからさ。期限がある分、いっぱいイチャイチャしたいじゃん」
結莉乃「……」

〈モノローグ〉

 ──そう。私たちは今、期間限定の『お試しの恋人』という関係。
 ──何の取り柄もないはずの私は、かれこれ一ヶ月ほど、この小崎翠とかいう学年一のモテ男の『カノジョ』になっている……。

〈モノローグ終わり〉

実は、小崎と結莉乃は、ワケアリの恋人(仮)同士。
→周囲の友人からは、一応正式なカップルという認識。


結莉乃(はあ、どうしてこんなことに……私、目立ちたくないのに)

むすっとしたまま小崎を睨むと、不意に小崎が結莉乃へと顔を近づける。
→直後、突然ほっぺにキスする。
→放心状態になる結莉乃。

小崎「あれ? 違った?」

ほっぺにキスされたことを理解し、結莉乃の顔がみるみる紅潮。
→やがて爆発。

結莉乃「ば、ばっ……ばかああぁーー!! 何するの小崎くんのばか! 学校でそういうのしちゃダメって言ったでしょ! ばか! ばかばか!」
小崎「いやあ、物欲しそうに俺のこと見つめるからさあ、てっきりそういうことだと」
結莉乃「見つめてない! 私たち本当の恋人じゃないんだからそういうの禁止!!」
小崎「うぐぇ!?」

必殺パンチを小崎に喰らわせ、隙を見て逃げ出す結莉乃。
非常階段から出て廊下を走りながら、ドキドキと早鐘を打つ胸に気づかないふりをする。

 ──あまり軽率に触れないでほしい。
 ──冗談ならやめてほしい。

結莉乃(……なんて、嘘つき)

→素直になれない自分の感情から逃げる。

結莉乃(本当はずっと、自分だって小崎くんに憧れてたくせに)

愛おしげに微笑む小崎のことを思い出し、頬を赤らめる結莉乃。
→本音では、実は小崎のことが嫌いなわけではない。
好きかどうかはわからないが、少なくともいつも堂々としている小崎は、気弱な結莉乃にとって眩しく、憧れの存在ではあった。

だが、結莉乃は自分に自信がなく、彼の好意を素直に受け取れずにいる。

 ──私なんか彼に釣り合うわけがない。
 ──私なんかが小崎くんの恋人なんて恐れ多い。
 ──周りにバカにされてしまうよ。

自分の本音に蓋をして走る。
だが、背後からは小崎がすごい勢いで追いかけてくる。

小崎「川村さぁぁん!! 今の一発めっちゃ興奮した!! もう一発ください!!」
結莉乃「あと本性がこんな変人だったなんて聞いてなぁぁい!! こっち来んなこの変態!!」
小崎「ありがとうございます!!」
結莉乃「何のお礼ッ!?」

騒ぎながらドタバタと走る二人。
その様子を、先ほど別れた小崎の友人たちがたまたま通りかかって見つける。

男子「おーおー、今日もやってら、あの二人」
ギャル「ほんと、翠ってヤバいよね〜。川村さんへの愛が」
男子「まあまあ、俺らの学年じゃ有名な話じゃん? 『小崎くんは川村さんを好きすぎている!』ってさ」
ギャル「目ぇつけられちゃって、ほんと気の毒だわ〜、川村さん……」

呆れ顔の友人たちに同情の眼差しを向けられているのもお構いなしに、小崎は結莉乃への愛を叫び、走っていくのであった。

第1話/おわり
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