【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

12 小崎くんと愛のお試し


⚪︎場所:祭り会場

石段に座っている結莉乃と加賀。
正面には双葉が立っている。

加賀「……どういう、ことだ? 本当の恋人じゃないって……」

加賀が切り出す。
双葉はりんご飴を噛んでいる。

双葉「ふーん、加賀もそのことは知らなかったんだ。てっきりアンタも川村さんとグルかと思ってたよ」
加賀「お、俺は何も知らねえよ!」
「おい、説明しろ。本当なのか? お前と小崎は、付き合ってんじゃねえのかよ?」

結莉乃に詰め寄る加賀。
結莉乃は青ざめ、目を泳がせている。

結莉乃「あ、有沢さん……もしかして、ずっと、聞いてたの……? 小崎くんとの会話……」
双葉「全部ではないけど、だいたい聞いてたよ」

ガリガリと飴を噛み、双葉は続ける。
結莉乃は双葉を見つめる。

結莉乃「あの、違うの、これには色々ワケがあって! みんなを騙すつもりじゃ、なかったんです……」
双葉「じゃあ認めるわけね。翠と付き合ってるのは嘘だって」
結莉乃「う、嘘、というか……その……」
双葉「正式な恋人じゃないんでしょ? じゃあ嘘じゃん。なに言い訳して逃げようとしてんだよ」

責めるような口振りで詰めてくる双葉。
結莉乃は息をのみ、何も言えずに俯いた。
加賀も困惑した表情で、結莉乃に問いかける。

加賀「……でも、この前会った時、お前、『小崎が家にいる』って言ってたよな? 付き合ってないのに、家に入れたってこと……?」
結莉乃「……!」
双葉「へえー、なるほど、そういうこと〜? おとなしそうな見た目してるくせに、やることは大胆だね」
結莉乃「ち、違う、あれは弟の勉強を見てもらってるだけで……」
双葉「嘘が下手すぎ。男子高校生が女の家に行って何もないわけないじゃん。どうせ翠が手ぇ出すようにアンタから仕向けたんでしょ」
結莉乃「──違う!!」

軽蔑したような眼差しの双葉に、結莉乃は声を張って否定する。

結莉乃「小崎くんはそんなことしてない! 絶対にしない!」
「たしかにあの人は、ヤバいしうるさいし距離感おかしい変な人だけど、私に無理やりそういうことする人じゃない……!」

結莉乃の訴えに、双葉は鼻で笑う。

双葉「もちろん、翠はそういうやつじゃないよ。でも、アンタはどうなわけ」
結莉乃「……え……」
双葉「アンタがたぶらかしてたんじゃないの? 部屋に翠を連れ込んだり、思わせぶりな態度で気を持たせるようなこと言ってさ。翠の気持ちをもてあそんでんだろ、悪い女だわぁ」
結莉乃「そんなっ……! そんなことしてない!」
双葉「どうだか。おかしいと思ってたんだよ。中学まで部活一筋で恋愛する素振りのなかった翠が、高校入った途端『好きな人がいる』なんて言い出したんだもん」
「どんな女だろうと思ったら、こんなパッとしない女に猛アタックし始めて。何かあるとしか思えないじゃん。理由なく好きになるわけない」

双葉の言葉を否定したくとも、結莉乃はすべてを否定しきれなかった。
→結莉乃自身も、小崎が結莉乃のことを好きになった理由や経緯を知らない。

双葉「あたしが怒ってんのは、別に翠をアンタに取られたからじゃない」
「むしろ二人を応援しようと思ってた。翠が選んだ人と結ばれて、幸せそうにしてるなら、あたしは苦しいけど、それでいいと思ってたよ」
「でも、それ自体が嘘なら、話が違うじゃんか」

双葉は結莉乃に歩み寄り、着物のえりを掴み上げる。

加賀「おい、落ち着け!」

加賀が止めるが、双葉は構わず結莉乃に凄んだ。

双葉「あたしは小学生の頃から、ずっと翠が好きだった。翠に愛をあげたかった。そんなあたしが、どんな気持ちで、アンタにその役目を譲ったと思ってんの?」
結莉乃「……っ」
双葉「何が〝お試しの恋人〟だよ……っ、バカにすんなよ、このクソ女!! 翠が愛情に臆病(・・・・・)だからって、その気持ちを利用しやがって──」

小崎「──おい」

怒鳴る双葉の声を遮るように、戻ってきた小崎。
一同はハッと振り返る。

小崎「……何してんの」

低い声で牽制。
しかし双葉はうろたえない。

双葉「何してんの、はこっちのセリフ」
小崎「……」
双葉「どういうこと、翠。二人が本当の恋人同士じゃないって何。どんな方法で川村さんにたぶらかされたわけ? ハニトラにまんまと引っかかって寝た? それとも──」
小崎「双葉」

小崎は冷たい表情で近づき、結莉乃の着物のえりを掴んでいる双葉の手を引き剥がす。

小崎「俺の好きな人、返して」
双葉「な……っ」
小崎「行こ、川村さん」
双葉「……は!? ちょっと待ってよ、おかしいって! そいつに騙されてんだよ、翠! お試しの恋愛なんてどうかしてる! 目ぇ覚ましなよ!!」
小崎「どうかしてるのはお前だろ」

小崎は声を低める。

小崎「お前、今までどこ行ってた。樹やあみりからの連絡無視して、何してたんだよ」
双葉「……。別に……焦ってて返事する余裕なかったし、人も多かったから、なかなか合流できなかっただけだけど」
小崎「その割に、俺らがここで話してる内容を盗み聞きする余裕はあったわけ?」
双葉「たまたま聞こえただけだっつの」

反論する双葉。
小崎はため息を吐く。

小崎「……なあ、双葉。俺らだって、それなりにお前のこと心配してたよ。でも、俺たちはみんな、お前の考えそうなことも何となく分かってた」
「どうせまた勝手に拗ねて、俺らに心配してもらいたい一心で、わざと(・・・)いなくなったんだろうな~って」

小崎の指摘に、双葉はグッと黙り込む。
→小崎はすべてお見通しという表情。

小崎「お前、いつもそうだろ。俺らをわざと困らせて、気を引こうとする。友情とか愛情を試そうとする」
双葉「……はあ? 何それ、別にあたしは……」
小崎「いや、お前はそういうやつだよ。お前の方が、俺らに対して〝お試し〟してばっか。そんな双葉に、俺と川村さんの関係をとやかく言う権利ある?」
双葉「ふざけんな、あたしと川村さんのは全然違う!! 翠に好かれてるって分かってるくせに思わせぶりな態度して、翠の気持ちをもてあそんでる時点で川村さんの方が最悪じゃん!」
小崎「お前がふざけんな、川村さんはそんな人じゃない。本当は分かってるだろうが」

真っ向から否定する小崎。
→静かながら本気で怒っている様子。

小崎「お前が行方知れずになったって分かったあと、一番双葉のことを心配してたのは川村さんだった。お前の失踪に慣れてる俺たちと違って、川村さんは本気で双葉の安否を気にかけてたんだよ。だから俺を探しに行かせた」
双葉「……っ」
小崎「俺らの話を盗み聞きしてたんなら、それぐらい分かってるだろ? 川村さんは俺をたぶらかすような人じゃない」
「ひねくれて拗ねたお前が、勝手に『悪い女』を作り上げただけだ」
「……もう、誰かを心配させて愛情を試すような真似はやめろ」

正論を返すが、双葉は納得いかない表情で小崎を睨む。

双葉「……誰かを心配させて愛情を試すなって? その言葉、翠にだけは言われたくないよ」

含みを持たせ、低い声で告げる双葉。[★この辺は後々の伏線]
小崎はぴくりと反応し、何も言えずに口ごもった。
→やがて小崎は目を逸らし、加賀の肩にトンと手を置く。

小崎「加賀、巻き込んじゃって悪いね。付き合ってくれてありがと」
加賀「……え……いや……」
小崎「じゃあ、俺らはこれで。双葉はさっさと樹たちのとこに戻れよ、またね」

小崎は結莉乃の手を取り、逃げるように離れていく。
双葉は悔しげに歯噛みし、結莉乃の背中を睨んでいた。


⚪︎場所:公園

祭りの会場を離れ、小崎と共に小さな公園へとやってきた結莉乃。
→ベンチに腰かけている。

遠くで花火の音だけ聞こえる。

結莉乃「……ごめん……」
小崎「いや、謝るの俺の方でしょ。ごめん」
結莉乃「ううん、私だよ……喧嘩させちゃった……」
小崎「あれぐらいいつものことだから大丈夫。双葉って良い子なんだけど、ちょっとトガってるとこあるっていうか……人と関わるのが下手でさ」
結莉乃「でも、有沢さんの言うことの一部は、何も間違ってなかった」

気落ちした様子で語る結莉乃。
小崎はため息を吐く。

小崎「どのあたりが?」
結莉乃「……お試しの恋人なんて、本当に小崎くんを好きだと思ってる人たちのことバカにしてる……って」
小崎「お試しの件は俺から頼んだことじゃん。責められるなら俺だけであるべきだろ」
結莉乃「……でも……」
小崎「どうせ双葉がそう言ったんだろ? 川村さんは本当に大人だよね、普通ああやって詰められたらイラっとしそうなのに、双葉のことまだ庇おうとして。女神かな」
結莉乃「……全然大人じゃないよ。正直ムカついたもん」
小崎「あ、そうだったんだ」
結莉乃「だって、有沢さんは……小崎くんが、その……私に手を出したと思ってたみたいで」

結莉乃は言いにくそうに言いながら、不服げに眉をひそめる。
→小崎は驚いた顔。

結莉乃「小崎くんは変な人だけど、私が本気で嫌がるようなことはしないでしょ?」
「なのに、まるで当たり前みたいに、小崎くんがそういうことを私にしてるって決めつけた言い方されたのは、ちょっと嫌だった」
「小崎くんはそんなことしない。私に無理やり触ったりしない。……そんな人じゃ、ないもん」

結莉乃は俯きがちに自分の意見を伝える。
小崎は終始驚いた顔をしていたが、やがて目を細めた。

小崎「……それは俺を買い被りすぎ」
結莉乃「え?」
小崎「本当は色々したいし、触りたいに決まってんじゃん。男子高校生の汚い欲望をナメちゃだーめ」

言いながら、結莉乃の腰を引き寄せて耳元に口付ける小崎。
→結莉乃の頬が紅潮。

結莉乃「ちょ、ちょっと小崎くん!」
小崎「そうやって顔すぐ真っ赤っかになっちゃうとことか、さっき双葉に掴まれたせいでえりが乱れて胸元ちょっと見えてるとことか」
結莉乃「え、嘘!?」
小崎「髪上げてるせいでうなじが無防備なとことか、しかもその首が蚊に刺されて赤くなっちゃってるとことか……」
結莉乃「そ、そういえば、痒いかも……」
小崎「俺、川村さんのそういうの全部、エロく見えちゃって仕方ないんだよね。自分でもびっくり」

フッと笑って、小崎は密着していた結莉乃から少しだけ離れる。
結莉乃は真っ赤になった頬を押さえ、目を泳がせた。

結莉乃「へ……!? な、何それ……っ、わ、私で、変な妄想したりしてるってこと……!?」
小崎「そりゃするでしょ」
結莉乃「へ、変態! 小崎くんのえっち!」
小崎「男なんてみーんなそうですぅ」
結莉乃「ばか! 信じてたのに!」
小崎「だから言ったじゃん、買い被りすぎだって」
「……でも、怖がられたり幻滅されたくないから、俺は川村さんが『いいよ』って言うまで、体に触れたりしないよ」

優しい眼差しで結莉乃を見る小崎。
結莉乃は頬を赤くしたまま、不服げに小崎を睨んでいる。

結莉乃「……ほ、ほっぺに許可なくチューするくせに」
小崎「吸って舐めて咀嚼して飲み込まないだけ褒めて欲しい」
結莉乃「ふざけんな何するつもりなのよ!!」

結莉乃が軽く怒った頃、遠くで最後の花火が上がる。
花火を見上げたつもりが、小崎の視界には公園の滑り台(・・・)が映った。
→先ほどの双葉の言葉を思い出す。

〈回想〉

双葉『……誰かを心配させて愛情を試すなって? その言葉、翠にだけは言われたくないよ』

〈回想おわり〉

小崎「……」

小崎は俯き、目の上に残る傷痕にそっと触れる。
やがて花火がすべて打ち終わり、祭りの夜は幕を閉じた。


第12話/終わり
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