【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

13 小崎くんとお似合いの人


⚪︎場所:昇降口〜教室

いろいろあった夏休みが終わり、新学期。
結莉乃は重い気分で登校。
先日の夏祭りでの一件を不安に思いつつ、校舎に入る。

結莉乃(どうしよう……夏祭りの時、有沢さんに小崎くんとのことバレたし、変な噂とか広まってるかも……)
(よくドラマとかでは、女の恨みを買うと下駄箱とかに嫌がらせされたりするし……)

ドキドキしながら下駄箱を開ける。
→しかしいたって普通。何事もない。

結莉乃(きょ、教室は大丈夫かな。私の机が外に投げ出されて席がなくなってたりとか……)

ビクビクしながら教室へ向かう。
→やはり何事もなく普通。

結莉乃(よ、よかった。何事もないや。さすがに考えすぎだよね、有沢さんだってそこまで意地悪な人じゃないし──)
双葉「川村さん」
結莉乃「ひい!?」

ホッとしたのも束の間。
教室に堂々と入ってきた双葉が、結莉乃の前に仁王立ちする。

双葉「ちょっと来てくれる?」
結莉乃「……は、は、はい……」

震える声で頷く結莉乃は、双葉によって教室から連れ出された。


⚪︎場所:空き教室

結莉乃(やばい、嫌がらせとかじゃなくて、直接呼び出しのパターンだった)
(ま、抹殺される……)

完全にネガティブに傾く思考。
結莉乃が連れられてきたのは、選択科目でしか使われていない空き教室だった。

双葉「なんであたしがアンタを呼び出したかわかる?」
結莉乃「あ、あの……私を抹殺するためでしょうか……」
双葉「んなわけねーだろ、何言ってんの」

双葉は辛辣に一蹴する。
→なんとなく後ろめたい結莉乃は肩身が狭い。

双葉「宣戦布告するために呼んだのよ」

やがて続いた言葉に、結莉乃は目を丸める。

結莉乃「せ、宣戦布告?」
双葉「そう。アンタには負けないって宣言しに来た」
結莉乃「負けないって……」
双葉「翠のこと。アンタが本気で翠のこと好きじゃないんなら、あたしが翠にアタックしても文句ないんでしょ」
「今までは遠慮してたけど、〝お試し〟程度の付き合いなら、これからは手を抜かない。あたしが横から翠を奪う」

堂々と言いきる双葉に、結莉乃の胸がざわつく。

結莉乃「な、何するつもりですか……?」
双葉「さあ? アンタに関係ないでしょ? 本気で翠のこと好きなわけじゃないんだし」
結莉乃「……でも、私、一応今は、小崎くんの恋人という役割で……」
双葉「恋人ぉ? 笑わせんなよ、恋人なわけないじゃん」

嘲笑する双葉。
結莉乃は俯く。

双葉「アンタにあたしを止める権利なんかない。翠はアンタのものじゃないんだから。勘違いすんなよ」
結莉乃「……」
双葉「まあ、アンタがいくら止めようが、あたしは翠と同じクラスだからアンタよりも長く翠と一緒にいれるんだけどね。残念でした」

煽られるも、結莉乃は何も言い返せない。
だが、『嫌だ』という気持ちが明確にあった。
→それでも『小崎くんを奪わないで』とは言えない。自分のワガママな気がして何も言い出せない。

双葉はさらに鼻で笑う。

双葉「何も言い返さないってことは、アンタは翠のこと何とも思ってないってことよね」
「アンタにその気がないなら、さっさと翠のこと解放してやってよ」
「どんな約束してんだか知らないけど、期待させるだけさせといて、おいしいとこ全部つまみ食いしたあと捨てるとか、マジで最悪だから」

それだけ吐き捨て、双葉は去っていく。
結莉乃は何も言い返せず、ただ言いようのない感情を抱えていた。


⚪︎場所:廊下

空き教室を出て、トボトボと教室に帰る結莉乃。
そこへ、クラスメイトの佐々木と間宮(※8話に登場)が声をかけてくる。

佐々木「あっ、おはよ〜っ、川村さん!」
結莉乃「ひゃ!? あ、お、おはよう……」
間宮「どしたの? なんか暗くない?」
結莉乃「いや……」
佐々木「川村さん、ウチは気持ちわかるよ! 夏休み終わったんだもん、暗くなっちゃうよね! 早起きして学校とかマジだる〜い!」
結莉乃「あ、あはは……そ、そうそう」

結莉乃は適当にはぐらかす。
→佐々木は能天気で、間宮はクールめなキャラ。

すると、今度は間宮が話題を振る。

間宮「あ、そういえば。夏休み、小崎くんと夏祭りきてたでしょ。一緒にいるとこ見たよ〜」
佐々木「マジ!? きゃ〜っ、らぶらぶ! あとで詳しく聞かせて〜!」
結莉乃「う、うん。期待に添えるエピソードが提供できるかわかんないけど……」

楽しげに女子トークしだすふたりに、結莉乃はホッとしつつ微笑んだ。
→佐々木と間宮はさらに続ける。

間宮「そういえば、今日から本格的に体育祭の準備期間に入るけど、何の種目出るか決めたー?」
結莉乃(あ、そっか、もう体育祭の時期なんだ……)
佐々木「ぜーんぜん! なーんも決めてない!」
間宮「体育祭といえば、フォークダンスのジンクスみたいなのあったよね? カップルのやつ」
佐々木「確かに! カップルで踊れたらその愛は永遠に続いて幸せになる〜ってやつでしょ!? 川村さんも小崎くんと踊りなよ!」
結莉乃「えっ……!」

体育祭のジンクス
→体育祭のフォークダンスで一緒に踊ったカップルは、いつまでも相思相愛で幸せになれる〜みたいな言い伝え。

結莉乃「あ、あんなの、ただの噂だし……!」
佐々木「まあまあ、踊るだけ踊ったらいーじゃん! 同じラブなら踊らにゃ損損!」
結莉乃(なんかそれ違うような)
間宮「でも、基本的にフォークダンスってクラス近い人としか踊れないよね。小崎くん七組だから、二組のウチらと踊るの難しいんじゃない?」
佐々木「あ、そっか、小崎くん七組か〜……ちょい厳しいかもねえ」
間宮「頑張って川村さん」
佐々木「応援してる!!」
結莉乃「……う、うん、努力する」

苦笑いする結莉乃。
→程なくしてチャイムが鳴り、授業が始まる。


⚪︎場所:二年二組の教室内

学級活動の時間。
委員長である高城さん(※第8話に登場)が前に立って進行する。
→黒板にはデカデカと『体育祭』の文字。

高城「さあ! 諸君! 今年もやってきましたよ、体育祭の季節が!」
「我々二組は、一組と合同の『白団』! この純白のハチマキを巻きつけ、他団を打ち負かすのです!」

相変わらず勝負ごとに熱い高城委員長。
応援団員や各種目の参加選手を決める。

白団(1,2組)
赤団(3,4組)
青団(5,6組)
黒団(7,8組)

→結莉乃は二組なので白団、小崎は七組なので黒団となる。

結莉乃(あんまり運動得意じゃないし、私は無難なところでいいかな……)
(小崎くんは、きっとリレーとか目立つ競技やるんだろうなぁ)

なんだかんだで小崎のことばかり考えてしまっている結莉乃。
そしてフォークダンスのジンクスのことも思い浮かべる。

結莉乃(二組と七組じゃ、クラス離れすぎてて、さすがにフォークダンス踊れないよね)
(新田さんとか有沢さんは、小崎くんと踊るんだろうな……)

双葉と小崎が手を繋いで踊っている場面を想像して胸が痛む。
体育祭だけでなく、今後のイベントもずっと同じ時間を過ごせるのだろうと考え、それがうらやましく感じる結莉乃。

結莉乃(いいな、有沢さん……。小崎くんと同じクラスってだけで、色々一緒に行動できるんだ……)
(競技で一緒になったりするのかな)
(二人三脚とかで、密着したりするのかな……)

嫌な考えばかり膨らむ。
→ハッとして考えを散らす。

結莉乃(いや、べ、別に、小崎くんが誰と一緒でも私には関係ないけど……!)
(でも、やっぱり、ちょっとやだな……)

モヤモヤと複雑な気持ちのまま、結莉乃は適当に係を決めて授業を終えた。


⚪︎場所:廊下(昼休み)

移動教室から帰ってくる結莉乃。
→実は久しぶりに小崎用のお弁当を作ってきていた。

結莉乃(小崎くん、急にお昼に誘っても大丈夫かな)
(有沢さんに気づかれないように、こっそり誘わないと……)

今朝、双葉からいろいろ宣戦布告されたため、少し気が引けてしまう。
その時、偶然、窓の向こうを覗くと渡り廊下にいる小崎が見える。

結莉乃(あ、小崎くん)

つい胸が弾み、呼びかけようとする。
しかし、小崎にボディータッチする双葉の姿も一緒に見えた。

双葉「ねえ、翠〜。今度の休み、みんなでプール行こ〜」
小崎「え、プールってもう終わったんじゃねーの? 九月だし」
双葉「中旬まで開いてるってさ! 駆け込みで行こ、閉まる前に! 水着も着おさめしないと!」
小崎「あー、はいはい、考えとく」
双葉「嘘つけ、乗り気じゃないじゃん。じゃあさ、今日の放課後、駅前にできたカフェに付き合ってよ。フルーツサンドが超うまいって噂の〜」
小崎「あそこ最近オープンしたばっかだろ? 絶対並んでるって」
双葉「流行ってる時に行かないと意味ないじゃん!」

楽しげな会話が結莉乃の耳にも聞こえてくる。
→モヤ、と胸がざわついた直後、結莉乃の近くにいた女子生徒たちの声も耳に届く。

女子A「あ、見て、小崎くんだ」
女子B「ほんとだ〜、かっこい〜。今日は双葉ちゃんと二人かな?」
女子A「小崎くんと双葉ちゃんって、どっちも美男美女で羨ましいよね〜。並ぶとお似合いすぎるし」
女子B「わかる。一年の時、あの二人絶対付き合うと思ってたもん」

結莉乃はどきりと反応する。
女子たちはさらに会話を続ける。

女子A「でも小崎くんって、あれでしょ、二組の子と付き合ってんだよね」
女子B「そうそう、顔も名前も忘れちゃったけど……何だっけ。カワタさん? ヤマムラさん?」
女子A「んーと、確か……。やばい、あたしも思い出せない。パッとしない印象だったのは覚えてんだけどな〜」
女子B「ひっど! あはは」

冗談混じりに会話し、結莉乃に気づくことなく背後を素通りしていく二人。
結莉乃はお弁当の入ったトートバッグを握りしめ、顔を赤くして俯いた。
→たった今交わされた会話の内容が、脳裏で再び繰り返される。

〈回想〉

女子A『小崎くんと双葉ちゃんって、どっちも美男美女で羨ましいよね〜。並ぶとお似合いすぎるし』
女子B『わかる。一年の時、あの二人絶対付き合うと思ってたもん』

〈回想おわり〉

結莉乃(……やだな)
(なんかすごく、やだな……)

下唇を噛んだ瞬間、今朝の双葉の言葉まで思い出してしまう。

〈回想〉

双葉『何も言い返さないってことは、アンタは翠のこと何とも思ってないってことよね』
『アンタにその気がないなら、さっさと翠のこと解放してやってよ』
『どんな約束してんだか知らないけど、期待させるだけさせといて、おいしいとこ全部つまみ食いしたあと捨てるとか、マジで最悪だから』

〈回想終わり〉

結莉乃「……私、やってること、最悪なのかな」

呟き、朝早く起きて作ったお弁当を見下ろす。
このお弁当も、〝思わせぶり〟な行動で小崎に期待を持たせるだけの、悪いことなのだろうか。
→まるで自分が汚い生き物のように思えてくる。

その時、俯いていた結莉乃の肩を誰かが掴む。

結莉乃「!」
加賀「……なあ、それ、弁当?」

現れたのは加賀。
結莉乃は驚きつつも頷く。

結莉乃「う、うん」
加賀「小崎にあげんの?」
結莉乃「……」
加賀「でも小崎、さっき売店でなんか買ってたぜ」

加賀の言葉に結莉乃は目を見張った。
→残念な気持ちと、ほんの少しの安堵感。

結莉乃「……そ、そっか。じゃあ、これ、別に渡さなくていいね。教えてくれてありがと」
加賀「俺にはくれねーの」
結莉乃「え……」
加賀「俺、お前の弁当好きなんだけど。小崎にあげないんなら、俺にちょうだい」

淡々と告げ、結莉乃の手から弁当を奪う加賀。
結莉乃は咄嗟に取り返そうとする。

結莉乃「あ、だ、だめ!」
加賀「何で」
結莉乃「だって、前、小崎くんが……加賀くんにお弁当あげたこと、ちょっと、嫌がってたから……」
加賀「アイツに嫌がる権利あんの? お前ら本当に付き合ってるわけじゃねえんだろ? だったら、アイツがお前を独占する権利なんてないよな」

堂々と言い切る加賀。
結莉乃は何も言えない。

加賀「もうやめとけよ、アイツと恋人ごっこすんのなんて」

加賀はため息混じりに告げる。

加賀「何の利点があんの、こんなん。振り回されて傷付くだけだろ」
結莉乃「……」
加賀「住む世界が違うって理解しろよ。アイツらは光、俺らは影。陽キャは陽キャとしかつるめないし、そうじゃないと釣り合いが取れない」
「光ってのは、光源が強ければ強いほど、影をどんどん濃くしていく。俺らみたいな日陰者が眩しい誰かの隣にいたって、暗さが目立って恥かくだけだ」
「たとえ太陽に手が届いたところで、真っ黒な消し炭にされるだけ。……分かるだろ、それぐらい」

結莉乃に言い聞かせ、加賀は結莉乃の元を離れる。
→トートバッグも持っていかれる。

結莉乃は俯いたまま、小崎の眩しさに惹かれて憧れていた、数ヶ月前までの自分の姿を思い浮かべる。

入学当初から眩しくて、目立っていた彼。
少しでもあの光に近づきたくて、髪を少し明るくした。
メガネをやめて、コンタクトにした。
スカートも折って一センチだけ短くしたし、爪も磨いて、唇に透明なリップもつけるようになった。

でも、やっぱり、本当の自分は、まだ影のまま。

結莉乃「……お昼、一人で食べよ……」

結莉乃は肩を落とし、その場を離れた。


第13話/終わり
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