【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

18 小崎くんと愛の告白



⚪︎場所:保健室

小崎は保健室で手当てを受ける。

保健医「軽く捻挫したみたいねー。バク転の着地で捻ったんでしょ? あんまり無茶しないのよ、まったく」
小崎「あはは、かっこよくキメたつもりだったんすけどね〜」
保健医「まあでも、大事故にならなくてよかったわ。もし痛みが強くなったり腫れるようなら、念のため病院に行きなさいね。折れてるかもしれないし」
小崎「はぁい……」

処置をほどこされ、足首に湿布を貼られる小崎。
結莉乃はホッと安堵。

結莉乃「よかった、大した怪我じゃなさそうで」
保健医「ほんとにね。でもこれじゃ午後の競技は出られないだろうから、私から担任の先生に報告しとくわ。川村さん、少し小崎くんのこと頼める?」
結莉乃「あ、はい! 大丈夫です!」
保健医「まあ、競技と言っても、あと残ってるのはフォークダンスぐらいだけどね。それじゃあ、あとはよろしく」

保健医は微笑み、保健室を出ていく。
結莉乃はハッとして、フォークダンスのジンクスを思い出す。
→ジンクス:カップルでフォークダンスを踊れたらその愛は永遠に続いて幸せになれる。

結莉乃(……小崎くん、足怪我しちゃったし、踊れないや)

少し残念に思うが、気を取り直して小崎の元へ。
小崎はベッドに腰掛け、ぼんやりしている。

結莉乃「あの、小崎くん、応援団すごかったよ。お疲れ様! それに、えっと、その格好と髪型もすごく似合ってるね!」
小崎「……そう? ありがと。いやー、でも、なんか恥ずかしいな……カッコつけたのに、怪我してちゃ台無しじゃん」
結莉乃「そ、それはまあ、そうかもしれないけど……でも、本当にすごかったよ。まさかあんなアクロバティックな演舞するなんて思ってなかったし……か、かっこよかった、から……」

緊張した面持ちで告げる結莉乃。
小崎は驚いた表情で結莉乃を見る。

小崎「かっこよかった? 俺が?」
結莉乃「う、うん。すごく、かっこよかった」
小崎「……もしかして気ぃ遣って言ってくれてる?」
結莉乃「ち、違うよ! 本当にかっこいいと思ったんだから! むしろ、その……小崎くんに目を奪われっぱなしで、他が、全然目に入らなかったというか……」

言いながら恥ずかしくなり、どんどん顔が赤くなる結莉乃。
小崎はしばらく驚いた顔で固まっていたが、徐々に切なげな表情になっていく。

小崎「……川村さんさ」
結莉乃「ん?」
小崎「どうして、俺が足痛めたって分かったの? バク転の着地は一応成功したし、ポーカーフェイス気取ってごまかしてたから、周りにバレてないつもりだったんだけどな、俺」

問いかけると、結莉乃はキョトンとまばたきする。
そして当然のように答える。

結莉乃「……だって、演舞中、小崎くんと一度も目が合わなかったから」
小崎「へ?」
結莉乃「もしかして、小崎くん、自分で気づいてないの?」

結莉乃は呆れ顔になり、小崎の隣に腰を下ろす。

結莉乃「小崎くんはね、かっこいいところを見せたい時、いつも私のことを見るんだよ。どんなに遠くにいても、すぐに見つけて、私に自分の存在を見せつけてくる。少なくとも、今日の午前中まではそうだったの」
小崎「……!」
結莉乃「……なのに、応援演舞の最中は、一度もこっちを見なかった。私を探す素振りもなかった」
「だから、怪我かどうかまでは分からなかったけど、何かあったんじゃないかと思ったの。ほら、加賀くんの暴露の件もあったし……」

目を伏せる結莉乃。
一呼吸置き、小崎は口を開く。

小崎「……そっ、か。俺、いつもそんなに、川村さんのこと見てたんだ……」
結莉乃「うん。ずっと見てた。ていうか、本当に無自覚だったんだ……」
小崎「はは……そっかあ。そうだよなあ、そりゃ見てるよなあ……。だって、こんなにずっと、川村さんが、視界の中でキラキラしてんだもんなあ……」

力なく笑い、小崎は結莉乃の体を引き寄せ、抱きしめる。
→結莉乃はびくっと肩を震わせ、慌てた様子で周りをキョロキョロ。

結莉乃「え!? ちょ、ちょっと小崎くん……! だめだよ、先生戻ってきたら気まずいし……!」
小崎「ごめん、ちょっとだけ」
「ちょっとだけでいいから、ぎゅってして……」

子どものようなお願いに、結莉乃は息を呑む。
→少しだけ迷いつつ、ややあって、そっと小崎の背中に手を回す。
→優しく抱きしめると、小崎は柔らかく笑う。

ちょうどその時、外からフォークダンスの音楽が聞こえてくる。
結莉乃は小崎を抱きしめたまま顔を上げる。

結莉乃「あ……フォークダンス、始まっちゃったみたい……」
小崎「……うん」
結莉乃「あ、そうだ、知ってる? この学校のフォークダンスね、ジンクスがあるんだって」
小崎「ジンクス?」
結莉乃「うん。カップルが体育祭のフォークダンスを一緒に踊れたら、そのカップルの愛は、ずっと幸せに続くんだって。だから、その……」
「……小崎くんと踊れたらな、って、思ってたんだけど……叶わなかったね……」

最後の方は弱々しい声で恥ずかしげに語れば、小崎がそっと体を離して結莉乃を見つめる。

小崎「踊ればいいじゃん。ここで」
結莉乃「……え?」
小崎「別にみんなの輪の中で踊らないとダメってわけじゃないっしょ? じゃあ叶えられる」
結莉乃「で、でも、小崎くん、足が……」
小崎「そんなに酷い怪我じゃないって。それに片足でも踊れるよ、これくらい」

小崎は片足で立ち上がり、手を差し出す。

小崎「お手をどうぞ、レディ」
結莉乃「……!」

結莉乃は頬を赤らめ、小崎の手を取って立ち上がる。
→聞こえてくる音楽に合わせてフォークダンスを踊る。

最初はぎこちない表情だったが、互いに顔を見合わせ、少しずつ笑顔に。

結莉乃「……ふふっ。小崎くん、運動神経いいのに、ダンスはあんまり上手じゃないね」
小崎「うーわ、そんなこと言うー? 両足使えてたら今ごろタップ踏んでやったのに」
結莉乃「嘘ばっかり」
小崎「ははっ」

片足で踊る小崎が転ばないよう、結莉乃は小崎の手と肩を握って支えている。
→窓から差し込む光が結莉乃を照らし、小崎の脳裏には、幼い頃の似たような情景がよみがえる。
→小崎は眩しそうに、切なげに目を細める。

小崎「……こうやって、川村さんに両手で支えられながら怪我した足を庇ってもらうの、二回目だね」

小崎の言葉に、結莉乃は覚えがない。
→首を傾げる。

結莉乃「二回目? 前にも、こんなことあったっけ……?」
小崎「どうかなあ、俺の夢だったのかも」
結莉乃「ええ? ふふっ、なあに、夢にまで私が出てくるの?」
小崎「そうだねえ、ずっと前から夢見てたよ」
「こんな眩しい夢を、ずっと見てた」
「永遠に覚めなきゃいいとすら思ってた」

結莉乃を見つめ、儚げに微笑む小崎。

小崎「……でも、そろそろ時間切れみたい」

フォークダンスの音楽が終わる。
→二人のダンスも終わる。

結莉乃「あ、ほんとだ、ダンス終わっちゃったね。アンコールもあるかなあ」
小崎「……川村さん」
結莉乃「ん?」
小崎「俺、今から告白していい? 約束通り、返事してくれる?」

小崎の言葉に、結莉乃は目を見開く。
小崎はまっすぐと結莉乃を見つめる。

小崎「〝Yes〟って、言ってほしいんだ」
結莉乃「……!」
小崎「お願い」
結莉乃「……っ、わ、分かった。うん。大丈夫。……ちゃんと、覚悟できてる」

結莉乃は頬を赤らめ、緊張した面持ちで頷く。
→外ではフォークダンスで盛り上がる生徒たちの、アンコールの掛け声。
→程なくして、フォークダンスのアンコールが始まる。

再び音楽が流れ始める中、小崎は息をスッと吸い込む。

小崎「川村結莉乃さん」
結莉乃「……は、はい」
小崎「俺と──」
結莉乃「……っ」

小崎「──俺と、別れてください」

しかし、彼の口から放たれたのは、結莉乃の想像とまったく違う言葉。

結莉乃「……へ?」

頭が真っ白になり、間の抜けた声が漏れる。
だが、小崎は表情を変えず、淡々と続ける。

小崎「あれ、聞こえなかった? 別れてください。全部忘れて、なかったことにしよ。俺の暇潰しに付き合ってくれてありがとね」
結莉乃「え? 忘れ……? 暇潰し……? 何、言ってるの……?」
小崎「今までの全部、ただの悪ふざけだったって言ってる。ただの冗談。ただのドッキリ。あんたのことなんか、大して好きじゃない」

小崎の〝告白〟に、結莉乃は呆然。
薄く笑った小崎はベッドに腰を下ろし、硬直している結莉乃を冷たく見つめる。

小崎「〝Yes〟って言ってくれるんでしょ、川村さん。これが俺の告白だよ」
結莉乃「……」
小崎「川村さんってチョロいね〜。あんたを何日で落とせるか友達と賭けてたんだけどさ、結構すぐ俺のこと意識してたでしょ。笑い堪えるの大変だったよ」
結莉乃「……」
小崎「あれ? まさか、本気で俺の恋人になれるとでも思ってた? ははっ、冗談、そんなわけないよね? 川村さんも分かってたはずだもんね、自分じゃ俺に釣り合わないって──」

──バチンッ!

小崎の声を遮り、頬にビンタする結莉乃。
小崎は言葉を飲み込む。
結莉乃は泣きもせず、悔しがりもせず、ただまっすぐと小崎を見つめていた。

結莉乃「……嘘つき」

怒りを孕んだ声を絞り出し、結莉乃は小崎を睨むと背を向ける。
→そのまま保健室を出ていく結莉乃。

小崎はしばらく立ち尽くしたあと、無言でベッドに倒れ込み、脳裏に加賀の言葉を思い起こした。


〈回想〉

加賀『結莉乃を守るか、自分を守るか。いい答えを期待してる』

〈回想おわり〉


小崎「……これで満足かよ、加賀……」

小崎は奥歯を噛み締め、ぐしゃりと前髪を握り込む。
→指の隙間から目の上の傷跡が見える。

結莉乃から叩かれた頬は、いつまでもヒリヒリと、消えない痛みを放っていた。


第18話/終わり
< 18 / 22 >

この作品をシェア

pagetop