【漫画シナリオ】小崎くんは川村さんを好きすぎている

17 小崎くんと眩しい人



⚪︎場所:校庭

アナウンス『以上を持ちまして、体育祭の午前の部を終了いたします。午後の部は昼休憩ののち、十三時三十分からの再開を予定しており──』

午前の部終了のアナウンスが流れる中、結莉乃はクラスメイトから質問攻め。

「川村さん、さっきの何? ドッキリ?」
「小崎くんと本当に付き合ってないの?」
「ねえ、もし脅されてるんならちゃんと相談して!」

結莉乃「ち、違う、本当に違うの! 脅されたんじゃない……!」

「じゃあ川村さんも乗り気で小崎の誘いに乗ったわけ?」
「まあイケメンに言い寄られて悪い気はしないっしょ」
「小崎の気持ちをもてあそべるってだけでステータスだよね」

結莉乃「そんな、もてあそんだわけじゃ……!」

様々な意見が出る中、何を言っても正しく伝わらないように感じて結莉乃は青ざめる。
→正直に『お試し恋人』だと言っても逆に誤解されそうで何も言えない。

佐々木や間宮も動揺しているのか、どうフォローしていいのか分からず遠巻きに見ている。
クラスメイトの声は続く。

「噂が本当だったとはねー」
「じゃあウチら、小崎くんのことデートに誘っても大丈夫ってこと?」
「マジで付き合ってるわけじゃないんだしいいんじゃない?」
「安心したー」
「川村さんだって、別に小崎のこと好きじゃないんでしょ?」

結莉乃「……っ」

結莉乃の脳裏に、先日の小崎の発言がよみがえる。

〈回想〉

小崎『体育祭終わったら、色々忙しいのが終わって、会う時間も取れると思うからさ』
『そしたら俺、もう一回、改めて告白しに行ってもいい?』
『……だから、その時までに返事決めといてよ』

〈回想終わり〉

結莉乃「わ、私は……」
あみり「──ちょっと、みんなどいて!」

そんな中、その場に駆けてきたのはあみり。

あみり「来て、川村さん!」

あみりは結莉乃の手を掴み、集団の中から連れ出した。


⚪︎場所:体育館の倉庫の中

あみり「……よし、ここなら誰も来ないっしょ」

あみりは倉庫の隙間から周囲を確認して息をつき、結莉乃の背をさする。
→結莉乃は疲れた様子。

あみり「川村さん、大丈夫? 顔色悪いよ」
結莉乃「……うん。ありがとう、新田さん、助けてくれて……」
あみり「助けたっていうか……まあ、ウチもちょっと聞きたいこと色々あったからさ……」

あみりはぎこちなく笑い、結莉乃をマットの上に座らせる。

あみり「ねえ、さっきの加賀の話、どこまで本当なの? 翠はこの前、『川村さんとはちゃんとラブラブ』って言ってたけど……」
結莉乃「……」
あみり「本当に翠に脅されてたの? 翠が無理やり迫って、強引に川村さんと関係持った? もしかして体だけの関係とかになっちゃってる?」
結莉乃「違う!! 小崎くんはそんなこと絶対しない!!」

結莉乃は声を張り上げ、つい涙まで滲む。

結莉乃「たしかに、あの人はちょっと強引なところあるし、たまに意地悪なことも言うよ!」
「でも、小崎くんは、ただ私に告白しただけ……っ、ただ、私のことが好きだっただけなの……」
「でも、私が、ずっとそれを信じてあげなかったから……曖昧な関係になっちゃって……」

俯く結莉乃。
あみりは黙って聞いていたが、やがて口を開く。

あみり「……そうだよね。分かるよ。ウチは翠の友達だから。翠がひどいことするわけないって分かる」
「翠が本気で川村さんのこと好きだってことも、ウチにはちゃんと分かる。だから二人が付き合ったって聞いた時は嬉しかったし、応援してた」
「でも、川村さんは? 翠のこと、どう思ってるの」

あみりは真剣な表情で問いかける。
結莉乃は顔を上げる。

脳裏に小崎の顔が浮かぶ。
→眩しくてキラキラした笑顔。
→日陰にいた結莉乃を明るく照らし、手を差し伸べてくれる。

そうして初めて、結莉乃はずっと眩しくて直視できないと思っていたものが、小崎自身ではなく、小崎に抱いていた自分の本心(感情)だったことに気がつく。

結莉乃(ああ、私、やっとあの眩しさと向き合えた)
(私はきっと、小崎くんのことが、本当はずっと──)

結莉乃「……好き」

本心をようやく受け入れ、口に出す結莉乃。
あみりは一瞬驚いた表情。
→しかしやがて柔らかな笑顔に。

あみり「……そっか」
「なら、よかった。ウチは全力で応援するよ、川村さん!」

あみりに励まされ、結莉乃は少しだけ気が楽になる。
清々しい表情で微笑み、頷いた。


〈場面転換・小崎視点〉

⚪︎場所:男子トイレ

ドンッ!
→小崎は加賀を強引に連れ込み、壁際に乱暴に押し付ける。(不穏な空気)

加賀「いって……!」
小崎「お前どういうつもりだ」

瞳孔が開き、完全にキレている小崎。
→殺伐とした空気。

小崎「どうしてあんな真似した? 何で川村さんを巻き込んだ? お前が嫌いなのは俺だろ、追い詰めたいなら俺だけにしろよ」
加賀「……ああ、嫌いだ。お前を見てると虫唾が走る」
小崎「だからあんな真似したってのかよ。SNSに情報をばら撒いたのもお前か? 双葉とお前しか俺らの関係は知らないはずだもんな、おい、どうなんだよ」
加賀「ハッ……お前、やっぱ何も分かってねえんだなァ」
小崎「あ……?」
加賀「言ったろ。お前は自分の影響力を分かってねえって。あんだけ人の集まる夏祭りで、例の会話を聞いてたのが有沢や俺だけだなんて思えちまう時点で、何も分かってねえよ」

呆れ半分に嘲笑する加賀。
小崎の表情は険しい。

加賀「お前の存在は明るすぎて、どうしても人目を引く。うちの学校だけじゃなく、他校にまでファンがいるぐらいだ。人でごった返す夏祭りで、お前に注目してたヤツは一人や二人じゃない」
小崎「……っ」
加賀「街灯に羽虫がたかるのと同じで、お前の光は余計なもんまで引き寄せるんだよ。だから警告したんだ、バレる前に別れろって」
「でも、結局、情報は流出した。結莉乃が白い目で見られんのも時間の問題だった。すでに噂は独り歩き状態、最悪ひどい尾鰭がついて拡散される」
「俺は、結莉乃を守りたかった。アイツを守るために、俺は最善の手を使ったまでだよ」

加賀はそう主張する。
しかし小崎は納得いかない。

小崎「最善の手……? ふざけんな、あれのどこが最善の手だってんだ……っ、川村さんを晒し者にしただけだろ!」
加賀「ああ、言葉が足りなかったか? 正しくは、最善の手にするための『お膳立て』だよ、俺がやったのは」
小崎「は……!?」
加賀「俺は優しいからな。結莉乃を救い出すヒーローの役割は、恋人役のお前に任せてやるっつってんだ」

加賀「前にも言ったろ。お前らの関係がバレたら、リスクを負うのは惚れてるお前じゃなく、曖昧な関係を続けた結莉乃の方だって」
小崎「……」
加賀「だから俺は、結莉乃に後ろ盾を作るための布石を打った。〝小崎が強引に脅して結莉乃を従わせた〟って誇張してな」
「するとどうなると思う? 同情票が結莉乃に流れるだろ? 大半は思う、『結莉乃は悪くない、仕方がない』って」
「つまり結莉乃に味方ができるわけだ」
「だが今の段階だと、俺が勝手に暴露しただけ。信憑性が薄いし、実際に生徒の意見も割れて半信半疑」
「そこで、お前の判断が重要になる。あとはお前に託すよ、ヒーロー」

不敵に笑って小崎を突き飛ばす加賀。
小崎は目を見開いたまま戦慄した表情。
→何が言いたいのかを理解した様子。

小崎「俺に、悪役になれってのか……」

神妙に告げる小崎。
加賀はニヤリと笑う。

加賀「なあ小崎、お前は俺より頭がいいだろ? だから俺の言いたいこと分かるよな?」
「結莉乃を守るか、自分を守るか。いい答えを期待してる」

加賀はポンと肩を叩き、去っていく。
小崎は悔しげに奥歯を噛み締める。
→すると小崎に着信。

双葉『翠、あんたどこ!? 午後の最初に応援演舞あるんだから、早く準備しないと! もうみんな着替えてるよ!』
小崎「……うん」
双葉『色々あったのは分かるけど、あんた、演舞中にバク転しないといけないんだからね! 怪我とかしないように集中して!』
小崎「……ん」

電話を切り、小崎は暗い表情のままトイレを出た。


⚪︎場所:校庭

午後の部が開始。
応援演舞が始まる。

白・赤・青・黒の順番。
→小崎の出番は最後。

結莉乃はどこか暗い表情でテントから見守る。
→そこへ佐々木と間宮がやってくる。

間宮「……大丈夫? 川村さん」
結莉乃「うん、大丈夫だよ。変に気を遣わせちゃうよね、ごめん」

間宮も佐々木もどこか気まずそう。
しかし、佐々木がキッと顔を上げる。

佐々木「んも〜〜っ、謝るとかナシナシ! きっと色々事情があんだよね!? それはそれ! 今は小崎くんの演舞見よ!」
結莉乃「!」
佐々木「だって楽しみにしてたじゃん! そうだよね!?」

訴えかけるような佐々木の言葉。
結莉乃は頷く。

結莉乃「うん……楽しみだった」
「小崎くん、絶対かっこいいから」

恋する乙女の表情で言いきる結莉乃。
間宮と佐々木は結莉乃を見つめ、柔らかな笑顔で頷く。

間宮「……なんだ、よかった。普通に相思相愛じゃん。心配して損したよ」
佐々木「だから言ったじゃん間宮〜! 川村さんと小崎くんは誰が何と言おうとラブラブだって!」
間宮「お見それしました」
結莉乃「ふふっ……。そうだね、相思相愛だといいな」

爽やかな風が吹き抜けたその時、ドンッ、と太鼓の音が鳴り、黒団の応援演舞が始まる。

太鼓と共に入場してくる黒団の生徒たち。
→黒い長ランとボンタンズボンに身を包み、髪やメイクをしっかりキメている。
→団長や副団長よりも、結莉乃は真っ先に小崎に目を奪われる。

小崎は普段前髪で片目を隠しているが、その髪を上げて、目の上の傷跡が見えている状態。
キラキラと眩しく視界に映る。

佐々木「ひえ、何あれかっこよ……!」
間宮「一番後ろの列にいるのに圧倒的存在感……!」
結莉乃「…………」

ドキドキする胸を押さえ、目が離せなくなる結莉乃。
→眩しそうに目を細める。
→その後、演舞が始まるが、ずっと小崎しか目に入らない。

結莉乃「……小崎くんってすごいね」
間宮「ん?」
結莉乃「ずっとキラキラしてる。いつだって眩しくて、勝手に目が追いかけちゃう。……本当、すごい人だね」
佐々木「何言ってるの川村さん、そう見えるのは小崎くんがすごいからじゃないよ」
結莉乃「え?」
佐々木「キラキラして見えるのは、川村さんが恋してるからでしょ」

にんまり笑い、佐々木は結莉乃を見つめる。
→手でカメラのフレームを作りながら。

結莉乃「そっか。恋ってすごいね」

結莉乃はそのフレームの中で幸せそうに笑った。


⚪︎場面転換・小崎視点

太鼓の音に合わせ、演舞をする小崎。
→しかし、脳内には加賀の言葉ばかりが駆け巡っている。

〈回想〉

加賀『なあ小崎、お前は俺より頭がいいだろ? だから俺の言いたいこと分かるよな?』
『結莉乃を守るか、自分を守るか。いい答えを期待してる』

〈回想終わり〉

小崎(加賀にあんなこと暴露された今、このまま放っておいたら、妙な噂が独り歩きして川村さんが孤立するかもしれない)
(俺はどうなってもいい。でも、川村さんは……川村さんはだめだ)
(だって、彼女は、俺の──)

考え事をしたまま演舞終盤の大技(バク転)に入ってしまい、小崎がバランスを崩す。
→ハッと我に返る。

小崎(やべっ……!)

強引に軌道修正し、なんとか無事に着地。
しかし、足に負荷がかかり、ズキッと鈍く痛みが走る。

小崎「っ……!!」

痛みを我慢し、平常を保つ。
→どうにか演舞終了。

演舞を見ていた観客は大歓声。
もちろん間宮や佐々木も興奮。

佐々木「やっば〜! 今の見た!? めっちゃバク転してた!」
間宮「いやー、さっきあんな大暴露があったことも忘れて、女子みんな小崎に釘付けだよ」
結莉乃「……」

二人が賞賛する中、結莉乃の表情は不安げ。
→少し小崎の様子がおかしいことに気づいていた。

結莉乃「ごめん、ちょっと席外すね」

結莉乃はテントを飛び出し、小崎の元へ走る。

一方、演舞を終えて戻ってきていた小崎は、クラスメイトや他校の女子に囲まれていた。

「ねー、小崎くんだっけ、めっちゃかっこいいじゃん! 写真撮らせて!」
「マジ良かったよ〜!」
「連絡先教えて〜」

小崎「……あー、ごめん、俺着替えあるから……」

左足をそれとなく庇いながら歩く小崎。
しかし、女子の一人に体を掴まれ、痛めた足に負荷がかかってバランスを崩す。

小崎「いっ……!」
結莉乃「──小崎くん!」

危うく転倒、という寸前、走って飛び込んできたのは結莉乃。
小崎の体を支え、手を貸す。

結莉乃「大丈夫!?」
小崎「……!」

太陽を背にして問いかけた結莉乃。
→その姿が眩しく視界に映り込み、小崎は目を細めた。

その瞬間、過去にまったく同じような形で手を貸してくれた少女の姿が、結莉乃の姿と重なる。
→回想へ。


〈回想〉

⚪︎場所:病院の廊下

廊下に差し込む西陽を背に、小崎のことを見つめる眩しい少女。
床に転がる松葉杖を拾い、幼かった小崎に手渡して体を支えてくれる。

少女『ねえ、大丈夫?』
『足、けがしてるの? ほら、掴まって』
『大丈夫だよ、ゆっくりでいいから』

〈回想終わり〉


小崎は硬直したまま結莉乃を見つめている。
→結莉乃は小崎を心配。

結莉乃「小崎くん、足、痛めたんでしょ? 保健室行こう。ほら、掴まって」
小崎「……川村さん……」
結莉乃「大丈夫だよ、ゆっくりでいいから」
「すみません、保健係です! 怪我人を保健室に連れていくので、通してください!」

人混みを掻き分け、結莉乃は小崎を支えて歩く。
小崎はそんな結莉乃の横顔を見つめ、やがて薄く笑った。

小崎「……やっぱ、変わんないよね、川村さん」
結莉乃「ん?」
小崎「ずっと前から、君が眩しい。出会った日から、今日までずっと、川村さんは俺の光だよ……」
結莉乃「も、もう、急に何言ってるの! バカなこと言ってないで保健室行くよ!」

キザなセリフで口説いてくる小崎を支え、結莉乃は保健室へと向かうのだった。


第17話/終わり
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