【書籍&コミカライズ】魅了持ちの姉に奪われる人生はもう終わりにします〜毒家族に虐げられた心読み令嬢が幸せになるまで~
「おやすみなさい、ヴァーリック様。どうか、いい夢を」


 すると、ヴァーリックは静かに目を見開き、逡巡することしばし。それからオティリエの耳元にそっと屈み、ふわりと軽く抱きしめた。


「うん。それじゃあ、また後で」

「……え?」


 ヴァーリックは戸惑うオティリエをそのままに、くるりと踵を返す。


(また後で、って)


 たしかに、ほんの数時間後には、今日の業務時間がはじまる。けれど、それにしてはなんとなく違和感のある言い方だ。首を傾げつつも、オティリエが私室に戻ろうとしたその時だ。


【夢でもまたオティリエに会いたい。だから、会いに行っていい?】

「…………え?」


 ヴァーリックの心の声が聞こえてきて、オティリエは心臓が止まりそうな心地がした。こちらを振り返ったヴァーリックと視線が絡む。熱っぽく見つめられ、微笑まれ、ぶわりと体中の血液が沸騰するような感覚がする。


(夢でって……私、ちゃんと眠れるかしら)


 両手で顔を覆いながら、オティリエは熱い息を吐き出すのだった。
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