私の好きな人には、好きな人がいます
控室に戻ると、ちょうど麗良の姿があったので愛華は声を掛ける。
「あ、麗良ちゃん、お疲れ様」
体調はどう?と続けようとしたけれど、愛華の言葉に返答することなく、麗良は出て行ってしまった。
(?大丈夫かな…もしかしたらまだ具合が悪いのかも…)
麗良の様子を気掛かりに思いつつも、ドレスから私服へと着替えることにした。
そこでふと気付く。愛華の鞄が引っくり返され、中身が床に散らばっていた。タブレットの不測の事態に備え持って来ていた紙の楽譜も思いきり破かれている。
「なにこれ…どうしてこんな…」
落ち着いていたはずの一連のいたずらの犯人だろうか。
「一体誰が……」
そこでふと思い当たる。
(麗良ちゃん…じゃないよね?まさかね。麗良ちゃんがそんなことするはずないよ)
先程擦れ違った麗良ではないか、なんて安直な考えではある。しかし……。
麗良も水原と同じように幼少の頃から一緒にこのピアノ教室に通っている。そんな昔なじみの麗良が、愛華に嫌がらせなんてするはずがない。そう愛華は思いたかった。
そうして少しだけ不穏な影を残して、愛華のピアノ発表会は終わったのだった。