私の好きな人には、好きな人がいます

「ピアノの腕だって、愛華ちゃんより麗良の方が上でしょ?この前のコンクールだって愛華ちゃんボロボロだったし、麗良はすっごく上手に弾けたんだよ。そんなだめだめの愛華ちゃんが、水原くんに釣り合うわけないよね?ね?愛華ちゃんもそう思うでしょう?」


 麗良はいつもと変わらない笑顔で愛華に話し続ける。愛華は麗良に何を言われているのか、分からなかった。


「れ、麗良ちゃん…?」


 しかし麗良は愛華を無視して急に声のトーンを下げると、愛華を睨みつけた。先程見間違いだと思った表情は、見間違いではなかったのだ。


「水原くんに近寄らないでくれる?昔っから目障りだったんだよね。なんで麗良じゃないの?どうして水原くんは愛華ちゃんばかり構うの?おかしいよね?麗良のが可愛くてピアノも上手なのに。邪魔だから、私達の視界に入らないでくれる?」


 麗良からは見たことも聞いたこともない表情と声色だった。いつも可愛らしく女の子らしいピンクの似合う美少女だ。こんな風に人を蹴落とすような表情と言葉を、未だかつて麗良から見たことがなかった。


 愛華が呆然として何も言えなくなっていると、そこにちょうど水原がやってきた。


「愛華、もう帰るのか?それなら俺も、」


 水原の呼び掛けに麗良がすかさず返答する。


「あ、水原くん!愛華ちゃん、今日は急ぎの用でもう帰るんだって。ね、愛華ちゃん」


 愛華は麗良の豹変ぶりに未だ驚きが拭えず、ただこくこくと頷くことしかできなかった。


「ばいばーい、愛華ちゃん」


 そう麗良に手を振られ、愛華はぎこちなく手を振ってピアノ教室を後にした。


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