私の好きな人には、好きな人がいます
「誰この人、超最悪。麗良の大切な腕なんだよ?ピアノ弾けなくなったらどうしてくれるわけ?」
麗良の言葉に、椿の怒りはまた募ったようだった。
「あのなぁ!こっちは下手したら死んでたかもしれないんだぞ!?何考えてんだ!?」
「知らないし。邪魔なんだもん、愛華ちゃん。水原くんは相変わらず愛華ちゃんのことばっかり気にしてるし、愛華ちゃんなんて、いなくなっちゃえばよかったのに」
「麗良ちゃん…」
麗良の気持ちは随分前に分かってはいたが、これほどまでに憎まれていたとは。
(麗良ちゃん…私が死んでもいいってくらい嫌いだったんだ……)
「愛華さん、警察に言った方がいいって」
椿の言葉に、愛華はゆるゆると頭を振った。愛華はキッと麗良を見据えるとこう告げる。
「麗良ちゃん、ピアノで決着つけよう。次のコンクールで私が勝ったら、こういうことはもう止めて」
愛華の提案に麗良はにっと笑った。
「いいよ?だって愛華ちゃん、絶対麗良には勝てないもん」
麗良は余裕たっぷりの笑みを浮かべて去って行く。
愛華はほっと息をつくと、緊張の糸が切れたように力が抜け、その場にぺたんと座り込んでしまう。
「愛華さん!?」
椿が慌てて愛華を支えると、近くのホームベンチまで連れて行ってくれた。
「ありがとう、椿くん」
隣に座った椿が不服そうに唇を尖らせる。
「いいのかよ、あの子放っておいて」
「うん…いいの。この決着は、自分でつけるから」
愛華の強い眼差しに、椿は「…分かった」と渋々頷いてくれた。
前回はボロボロで何もできなかったコンクール。今度は麗良に負けない演奏をしなくちゃいけない。
愛華はそう、心に強く決めた。
「椿くん、また助けてもらっちゃったね」
「愛華さんが無事ならなんだっていいって」
やっと張り詰めていた緊張が緩んだのか、椿もひと息をつきながら愛華の隣で伸びをした。