リングノート〜必ず君を甲子園に連れて行く〜
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚


しばらくして監督とキャプテンの海斗が来た。


監督とすずのお母さんが話していて、

海斗は俺に何か話しかけてきたが、

全く頭に入ってこなかった。

俺はすずの手を握って、

ただひたすらすずの名前を呼び続けた。


すず、頼むから起きてくれ。

すずがいない人生なんて、考えられないんだ。



夕陽が沈む頃、監督が俺に言った。

「本宮、帰るぞ。」

帰る?

すずを病室において?

帰られるわけないじゃないか。

俺はすずの手を握った手を離さない。

「お前がここにいたって、高原が目覚めるわけではない!もし高原が目覚めたらなんて言うと思う?絶対お前に練習に行けって言うはずだ!お前が明後日の決勝で勝って、甲子園に行くお前の姿を、高原も見たいはずだ!!」

「監督!!でももしすずが起きなかったら、そんな俺の姿を見ることもできないじゃないですか!!」

監督と海斗は無理矢理俺を連れて行こうとする。

「もう甲子園なんてどうでも良いんです!!そんなことより俺はすずに目覚めて欲しいんです!!」

断固として聞かない俺に諦めて、

監督と海斗はすずのお母さんと少し話をしてから

帰って行った。

「翔くん、何か少しは食べないと。朝から何にも食べてないんでしょ?」

すずのお母さんが心配して俺に言う。

「食欲湧かないので、大丈夫です。」

「翔くん、ひとまず一旦帰ったほうがいいんじゃないかしら?着替えも何もないだろうし。」

「着替えなんていらないです。お母さん、もしかして、俺がここにいたら迷惑かもしれないけど、それでも俺、どうしてもすずが目覚めるまで、すずのそばにいたいんです。いいですか?」

「迷惑ではないわ、きっとすずも目覚めた時、あなたがいてくれたら嬉しいと思う。でも明後日は決勝だし、明日は練習に行ったほうがいいんじゃない?すずもそれを望んでるはずだわ。」

「すずのいない甲子園なんて俺には意味ないです。」

俺は何と言われてもその場を離れなかった。

すず、早く目を開けてくれ。

俺にはすずがいない人生なんて考えられないよ。

それにすずにまだ伝えられていないことだってある。

お願いだ。目を覚ましてくれ、、、。


これまでどんな事があっても、

俺の中で野球は常に1番で、

それ以上に大事なものなんてなかった。

でもすずが事故にあったと聞いた時、

俺の人生からすずがいなくなるって考えたら

怖くて仕方がなかった。

もし甲子園に出られなかったとしても

これから野球が続けられなくなるとしても

もうそんなことはどうでもよかった。

すずが目覚めるまで俺はすずのそばにいる。

そう決めていた。


次の日の夕方、また工藤監督と海斗が、

今日は烈と勇弥も連れて病院に来た。

工藤監督が俺に怒っている。

でも誰の声も頭に入ってこなかった。

「明日、朝一でお前を迎えに来る。絶対にお前を連れていくからな。」

そう言って4人は帰って行った。
< 50 / 53 >

この作品をシェア

pagetop