離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
そしてこれからも、医者としてどれだけの壁にぶつかっていくのだろう。

「じゃあ私は、その夢のお手伝いができるような人間になりたいです」

看護では人を救うことはできない。

私はオペもできないし、診断もできない。

でも、それをできる人を支えることなら、できるかもしれない。

そして、圭吾さんが救った人たちに寄り添い、不安を取り除いていくのが私の役割だ。

「七海は今のままでじゅうぶん、俺を支えてくれてるよ」

優しく目を細めた圭吾さんが、こちらに手を伸ばす。

その瞬間エレベーターホールの自動ドアが開き、私たちはお互いにそっぽを向いた。

幸い入ってきたのは隣の病棟の看護補助者さんで、車いすに乗った患者さんを静かにエレベーターに乗せて去っていく。

「びっくりしたあ」

胸を撫でおろすと、なぜか笑えてきた。

「危ない危ない」

圭吾さんも眉を下げて笑う。

目が合うと、どちらかともなく顔を寄せあった。

まるで見えない磁力に引き寄せられるように。

瞼を閉じると、彼の唇で呼吸を奪われる。

職場でこんなことをしていてはいけないという思いと、もっとしてほしいという願望がごちゃ混ぜになった。

数回唇を重ねたあと、圭吾さんが離れていく。

彼は愛おしそうに私を見つめ、目を細める。

妻として、人生のパートナーとして、この人とずっと一緒にいたい。

笑顔の彼を見て、心からそう思った。



< 232 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop