離婚前提婚~冷徹ドクターが予想外に溺愛してきます~
病棟で一番お金に困っていそうな看護師が私だったから、こうして食事に誘って変な契約を持ちかけたのだ。

そうでなければ、私が笠原先生に指名される理由などない。

私はごくりと唾を飲み込む。

「それって、ちゃんと書面とか作ってもらえるんでしょうか」

両手を膝に置き、居住まいを直して見つめると、先生はこくりとうなずいた。

「契約書を作ろう。俺のことが信じられないなら、今すぐまとまった額を振り込んでもいい。それを確認してから契約でも、こちらは構わない」
「それなら……」

息を整え、私は頭を下げる。

これはチャンスかもしれない。不運だった、私たち家族のための。

「その契約、乗らせていただきます」

顔を上げると、笠原先生は満面の笑み──とまではいかないけど、表情が明るくなっていた。

「本当か。恩に着る」

先生は立ち上がり、私に右手を差し出す。

「よろしく頼む」
「こちらこそ」

私は先生の手を取った。

繊細なオペをする手は、指が長くてしなやかだった。

< 93 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop