冷酷な御曹司に一途な愛を注ぎ込まれて


 その一心で「彼氏ならいる」と咄嗟に嘘が出てしまった。母のピリつく表情で、もう引くに引けなくなってしまった。


「誰よ」

「え……」

「あんたの彼氏とやらは誰だって聞いてるのよ。半端なヤツじゃ認めないからね」


 母の言う『半端なヤツ』の基準が分からない。けれど、母が、認めてくれそうな理想とする男性は思い浮かんでいる。


 私達の会社の御曹司、(たちばな)一希(かずき)さんだ。三年前に本社のニューヨークに異動になり、それっきり顔を合わせていないが、私と五つ違いの橘さんは、思いやりがあって、社員ひとりひとりの意見を尊重してくれていた。私はそんな橘さんが好きだった。


 橘さんならニューヨークにいるし、彼氏と言ったところで迷惑はかけることはない。そんな軽はずみな考えで、

「うちの会社の御曹司の橘一希さん」

 と、フルネームで答えてしまった。


「会社の御曹司?」

 御曹司と聞いて金に目が眩んだかのように、食い気味に私に近寄る母。

「でも、三年前からニューヨークにいるし、いつ日本に戻ってくるか分からないから会わせられない」

「ニューヨークですって!? 写メ見せなさいよ!」

「スマホ壊れた時に消えたから今はない」


 そう告げると、母は呆れた様子でスマホを触っている。そして、webで見つけた画像を私に見せてきた。


< 6 / 66 >

この作品をシェア

pagetop