筋肉フェチ聖女はゴリラ辺境伯と幸せを掴む
「ローズ?」
「ブレイズ様。私、これならどうにか出来るかもしれません」

 続いて私はブレイズ様に歩み寄り右手の指先を揃えて、彼の胸元に触れた。朝から鍛錬しているせいかその上半身は汗でしっとりと濡れている。……筋肉の割れ目を汗が伝う様が絶景で、ゴクリと唾を飲んだ。しかも昨晩は石鹸の香りしかしなかったのに、今は汗で少し雄々しい香りも混じっていて。その色香に魅了されて頭の芯が麻痺しそうだ。

「なッ……まさか、まだ足りないと言うのか?」
「はい。だから足りない分の力は私が強化魔法で補います。これできっと魔法陣が吸収できる力を上回るはずなのでドアを殴り飛ばせる……って、どうかしました?」

 触れた指先から柔らかな緑色の光を発しながら、ブレイズ様のパワーを引き上げる強化魔法をかけたのだが。ブレイズ様は気まずそうに片手で顔を覆っている。
 
「あ――……すまない。私が煩悩に塗れていただけだった」
「煩悩?」
「しょうが無いだろう……可愛かったんだ。昨晩俺の上に跨って胸元に顔を埋めて、嬉しそうに微笑むローズが……小悪魔かつ天使で可愛すぎたんだッ!!」

 ――ドゴーンッ!! という破壊音が響き渡り、ブレイズ様の拳が柱にめりこんだ。
 パラパラと降ってくる天井の欠片と、ミシミシと怪しい音を立てるヒビだらけの柱。
 
「「あ」」

 咄嗟の判断でブレイズ様の胸元に引き込まれた私は、彼の体で落下してきた天井から守られて。更に私が咄嗟に彼が傷つかぬように強化魔法をかけたので、お互い傷ひとつなく無事だった。
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