惨夢
第四夜

「……!」

 ぱち、と目を開ける。
 不意に息を吹き返した気分だった。

 ()えた頭の中に、昨晩のことが蘇ってくる。

 (むご)たらしい状況に晒された挙句(あげく)殺されたけれど、成果はあった。
 何よりも大きな収穫はメモを見つけたことだ。

(早く学校行ってみんなと話さないと)

 朝陽くんが見つけたもののほかにも、見つかったメモがあるかもしれない。

 がばっ、とかけ布団を跳ね除けて起き上がった瞬間、刺すように左腕が痛んだ。

「……っ」

 袖を捲ると、4本の傷が(あらわ)になる。

 そのうちのひとつから上がった煙がたなびいていた。

 じくじくと焼け焦げて(ただ)れていくみたいな激痛を伴いながら、だんだんと傷が消えていく。

「痛た……。うぅ……!」

 顔を歪めて(うめ)いた。
 あまりの痛みに息が止まる。

 ほどなくしておさまると、腕の傷は3本になっていた。
 ……わたしが死ねるのはあと3回までだ。

 ぎゅう、とたまらず握り締めていた手首に赤い痕が残った。

 呼吸を再開する。
 何だか酸素が薄く感じられて、深呼吸をしても(よど)んだ空気が出ていってくれない。

(みんなはどうなっただろう……?)

 朝陽くんはともかく、ほかの3人は生き延びられただろうか。
 特に夏樹くんはあのあと無事だっただろうか。

 そんなことを考えながら支度を整え、急ぎ足で学校へ向かった。



     ◇



 5人で教室の片隅に寄り集まる。
 窓からは朝の柔らかい光が射し込んでいた。

 清々しい日和(ひより)のはずなのに、それぞれの表情は暗く晴れない。

 中でも夏樹くんの顔色は日に日に悪くなっていて、追い詰められていることがひと目で分かった。

「昨日……びっくりしたよね、朔」

 重たげに口を開いた柚が、遠慮がちに高月くんに同意を求める。

「ああ……」

「何が?」

 不思議そうな顔でふたりを見比べる朝陽くん。
 わたしも同じ気持ちで首を傾げた。

「鍵見つけて屋上向かったらさ、ドアの前がスプラッター映画になってたんだよ」

「日南と乾がそこで死んでた」

 どきりと心臓が強く打った。
 結局、夏樹くんも助からなかったんだ……。

 柚の言葉に凄惨(せいさん)な光景が頭に浮かんだ。

 きっとドア前に広がった血の海に、分断されたわたしたちが横たわっていて、切断面から飛び出した内臓が浸されていたことだろう。

 朝陽くんの惨殺(ざんさつ)死体を目の当たりにしたからか、余計に生々しく想像できてしまった。
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