愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
「私は殿下の幼きころにお目にかかっております」
「……申し訳ありません。覚えてません」
「御幼少のみぎりゆえ、仕方ありますまい」
 ヒルデブラントは口の端だけで笑った。
「あなたがまだ離宮におられたころです」
 ヒルデブラントは語り始めた。

***

 彼は二十七年前、カーライル子爵の跡取りとして生まれた。
 生まれたときから左右の目の色が違った。
 黒髪、茶色の目の両親から生まれたのに、右目が金色、左目が銀色だった。
 伝説にある死の神は右目を金、左目を銀で描かれいていた。
 そのため、彼は死の神の子ではないかと恐れられた。
 父は不貞を疑い、ヒルデブラントと外国風の名前をつけた。
 疑われた母は数年を耐えたものの、結局、潔白を訴えながら自ら命を絶った。
 彼がその後も育ててもらえたのは、ひとえに恐怖ゆえだった。
 死の神の子やもしれぬ彼を粗雑に扱えば、どのような報復があるかわからない。
 彼自身にはなんの力もないが、人々は憶測で彼に死を見出して恐れた。
 ゆえに彼は屋敷の一室でひっそりと育てられた。
 ヒルデブラントの父は、母が亡くなるとすぐに後妻を娶った。
 彼には一歳年下の弟ができた。後妻には子がいたからだ。
 彼は父によく似ていた。
 母の生前から関係を持ち子を成していたのだとすぐに知った。
 継母となった女性も義弟もヒルデブラントを忌避した。
 七歳になったヒルデブラントは騎士見習いの従士としてクライヴ・リンバーグに預けられた。
 クライヴは彼を差別しなかった。
 そのような目の者はたまに生まれるものだ。そもそも死は人に不可分のもの。後悔なく生きるべしという神のお告げやもしれぬ。
 見聞の広い彼はほかの従士と平等にヒルデブラントを扱った。
 従士仲間の中にはヒルデブラントを虐待しようとする者も、恐れて距離を取る者もいた。
 ヒルデブラント自身、彼らとどう接していいのかわからず、揉め事ばかりを起こした。
 売られたケンカを買っただけだったが、それを注意するクライヴに不満があった。
 悪いのはケンカを売る方だ。俺は悪くない。
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