ビターなフェロモン (短)

蓮人くんだって、きっと同じことを思ってるよね。

好きな人がいたら、その人が良かったって……そう思うよね。

蓮人くん。相手が私で、本当にごめんね。


「桃子、どうしたの? 泣きそうになってるよ」

「ごめ、何でもないの。ありがとう、皐月くん」


同じ顔なのに、双子なのに。

全て同じなわけないんだと――この時、痛いほど分かった。


「桃子、まだ休んでなよ。俺、保健室の先生を探してくるから」

「皐月くん、ありがとう」

「雨がうるさいけど、ちょっと寝なね。疲れた顔してるよ」

「……うん、そうする」


ザアア――と外で鳴りやまない雨音が、耳から体内へ入っていく。

そして学校の建物を濡らしていくように。

私の心も少しずつ、冷たい涙に侵食されていく気がした。



ੈ✩


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