元許婚に恋をする。
花野院公爵家
花野院公爵家


「お帰りなさいませ、宗一郎様」
 馬車が止まり、花野院邸に到着する。宗一郎様と一緒に降りると洋装をした七三分けの髪型をした殿方が深くお辞儀をした。ちなみに宗一郎様の髪型は中央分けだ。
「あぁ、ただいま。父上はいるか?」
「はい。いらっしゃいます」
「分かった、じゃあ美織。行こうか」
 私は、宗一郎様に付いていくと白木屋とは別格という感じの扉がある。その扉を三回ノックし「宗一郎です、美織嬢を連れて参りました」とドアに向かって言うと、扉の向こうから返事がして宗一郎様は扉を開けた。宗一郎様は私を先に入れて後から入る。
「父上、こちらが美織嬢です」
「あぁ分かっている」
 そう呟いた目の前の人は、初対面じゃない。どこかで会ったことがある……
「美織さん、久しぶりと言ってもいいだろうか。亡くなられた伯爵夫人がご健在の時、舞踏会で会ったことがあるんだが覚えているかな?」
 舞踏会……もしかして、あの……
「思い出してくれたか、良かった良かった。美織さんはあの頃は幼かったが、今はとても綺麗になったね。伯爵夫人によく似ている」
「ありがとうございます……嬉しいです」
 宗一郎のお父様は微笑み「まぁ、座りなさい」と椅子へ座るように促されて私は椅子に座った。
「美織さん、宗一郎から聞いてると思うんだが君は伯爵家令嬢として籍がある」
「……はい、でも、私は家を出た身です」
「そうだな、普通ならそれで除籍だ。だが君の場合は違うんだよ。君は、家を出なくてはならない状況に合ったんだそれは俺も知っているし議長も知っている。これも宗一郎が言ったと思うが……まぁ、何にせよ今日からここが美織さんの家だ。ゆっくり過ごすといい」
 そう言ったと同時に女中さんかと思われる女性が入ってきた。
「これからのことは、この桜木に聞けばいい」
「はい、……桜木さん、私秋塚美織です。よろしくお願いします」
「あ、頭をおあげくださいませっ! 私は、女中の桜木 美知(さくらぎみち)と申します。美織様よろしくお願いします」
 桜木さんという人は、四十代くらいの温厚そうで優しそうな女性だ。
「それにこれは家令の榊原(さかきばら)だ。私や宗一郎に言えないことはこの二人に言ってくれたらいい」
 榊原さんはお辞儀をすると一歩下がる。
「じゃあ、桜木。美織さんをよろしく頼む」
「承知いたしました」
 桜木さんと部屋を出ると洋風な部屋に通された。
「まず、その着物とエプロン取りましょうか」
「あっ、はい……すみません」
 私はエプロンを取ると桜木さんを筆頭として同世代の女中さんが二人やってきて着物をささっと脱がされた。そして上等な生地で出来ている着物に着替えさせられた。
「桜木さん、こんないい着物いいんでしょうか」
「はい。こちらは坊ちゃん……いや宗一郎様が美織様のためにご準備されたものですので」
「そうなんですね、後でお礼を言わなくては……こんな素敵な着物久しぶり」
 本当に久しぶり……あの家を出て以来かしら。
「髪も結いましょうか」
 そう言った同年代だろう女中さんは軽く結ってあった私の髪をきれいに整えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ……っ」
「あの、お名前を聞いてもよろしいですか?」
 これからお世話になるのだから名前くらいは知っておかないと……名前で呼びたいし。
「すみませんっ! 名乗りもしませんで……! 私、フミと申します」
「私は、ふゆといいます!」
 彼女らは綺麗なお辞儀をした。だから私は「頭を上げて!」と言った。
「フミさん、ふゆさん。これからお世話になります、美織です。えっと、多分末永くお世話になると思うので仲良くしていただけたら嬉しいです」
「美織さま!? 私らなどに頭は下げないでくださいっ」
「でも、お世話になるんだもの。挨拶は大切だもの」
「はい、そうですね。……さ、出来上がりましたよ」
 鏡で姿を確認すれば、扉がノックされてドアが開いた。そこには宗一郎様がいて部屋に入ってきた。
「やぁ、美織さん……おぉ、とても綺麗だね。君にとても似合っているよ」
「宗一郎様……あ、このお着物を準備してくださったと聞きました」
「うん、君に似合うと思った着物を選んだんだ。デザインは母から聞いたのだけど」
「ありがとうございます、嬉しいです」
 本当に綺麗で、夢みたいだ。宗一郎様が迎えにきてくれた数時間前から本当に夢のような感覚になる。
「気にってもらえて良かった。そうだ、綺麗にしたところだしどこか出かけよう。かふぇーでも行こうか」
「え、いいんですか」
「いいに決まってるじゃないか。もう馬車も準備してあるんだ行こう」
 宗一郎様はそう言って桜木さんや外にいた付き人さんに声をかけると、私を連れて外へと出た。


 
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