久我くん、聞いてないんですけど?!
「だから外食なんて嫌だったんだよぅー。ママの料理じゃなきゃ嫌だ」

「まあ、清ちゃん。そんなこと言ってくれるなんて、ママ嬉しいわ。でも外では言わないでね。マザコンなんて思われたら大変だもの」

安心してください、お母様。
とっくに認定されてます。

「それにね、清ちゃん。今日は初めてのデートなのよ?ちゃんと(はな)さんとお話ししなきゃ」

「そんなの無理だよぉ。今日会ったばかりの見ず知らずの人に、何話せばいいって言うの?」

そのセリフは本人のいないところでお願いします。

「そうねぇ…。やっぱり定番は趣味じゃない?あなたの趣味は何ですか?って聞けばいいのよ」

お母様、せめて【ささやき女将】でお願いします。

「ママが聞いてよぉ」
「もう、仕方な…」

「趣味は茶道でございます」

キモい会話に耐えきれず、私は食い気味に答えた。

「ええー、茶道なんて興味ない」

あら、奇遇。
初めて意見が合いましたわね。

「清ちゃん、そんなこと言わないの。あなたも趣味をお話ししたら?」

いえ、固くお断り致します。

「趣味ー?!ゲームとアイドルの推し活」

…でしょうね。

「清ちゃん。そういうのはオブラートに包むのがマナーよ。パソコンとDVD鑑賞って答えなさいな」

ですからお母様。
ささやいてください。

「でも今日は久しぶりに外出して良かったわね。こうして美味しいお料理も味わえたし。また来ましょうよ」

「やだよぉ。僕は家でママの料理が食べたい」

「あらあら、清ちゃんたら」

えー、わたくしはお邪魔なようなので、あとは若…くはないお二人でごゆっくり。

「下川様。本日は貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございました。わたくし、そろそろ失礼させて頂きます」

ナフキンを置いて立ち上がると、深々とお辞儀をした。

そうでもしないと、うっかり視界に入ってしまう。

「あら、華さん。デザートがまだだけど、いいの?」

「ええ、もう充分堪能させて頂きましたので」

マザコン親子のキモ会話を。

「それでは、失礼致します」

もう一度頭を下げると、そそくさと個室を出た。
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