久我くん、聞いてないんですけど?!
お見合いという名の悲劇
御曹司って、女性の憧れだと思っていた。

「このお肉、固いよぉ。こんなの僕、食べられないー」

ピシッとしたスーツで、スマートに高級フレンチレストランにエスコートしてくれ…

「ちょっとぉー、焼き直してきてよ」

優雅なテーブルマナーで、スタッフにも紳士的に振る舞い…

「もぅ、ママのステーキじゃなきゃ、食べらんないよぉ」

デート中はママではなく、私に優しく笑いかけてくれる。

いや、そもそも。
デートにママを連れて来たりはしない。

私の頭の中でイメージしていた『御曹司』とまったく正反対の小太りメガネが、今目の前に座っている。

分かっている。
人を容姿で判断してはいけないし、そんなあだ名もつけてはいけない。
重々分かっていますとも。

(でも、そうでもしなけりゃ頭が大噴火よ!何?この人。私、26年間生きてきて、こんなに衝撃的な人、初めてお目にかかるわ。天然記念物か?!)

怒りを通り越して呆れてくる。

パクパクとステーキを口に運びながら、こうなったら話のネタにしようと、冷静に観察を始めた。

小太りメガネ………もとい。

大手ゼネコン 下川(しもかわ)グループ 御曹司。
創業者の直系の孫に当たる、次期社長、33歳。

見た目はおっさん、中身は子ども。
その名も
下川 (きよし) (敬称略)
< 2 / 39 >

この作品をシェア

pagetop