久我くん、聞いてないんですけど?!
どうしてこうなった?!
「入って」

エレベーターで客室フロアに下りると、少し進んだ先の部屋をカードキーで開けた久我くんが振り返る。

「部屋、予約してたの?」

「ああ。帰るの面倒くさいし」

「って、一人でこんなに広い部屋?贅沢すぎない?」

「二人になったから、ちょうど良かった」

「どういう意味よ?」

「そのまんまの意味。それより聞きたい。ほんとにアイツと結婚するつもりだったの?」

「そうよ」

「嘘だろ?!俺の告白を断ったのも、アイツがいたから?」

「うん」

すると久我くんは、耐えられないとばかりに大声を出す。

「マジか!あいつに負けるとか、一生の不覚!結婚相手がいるなら仕方ないって、なんとか諦めようとしてたのに、まさか相手があのキモ川だとは!」

あ、やっぱり?
そう呼んじゃうよね。

「アイツのせいで、俺達2世組がどんなに印象悪くなったか!世間知らずの坊っちゃんだとか、ぬるま湯育ちのボンボンだとか、しょせん親の七光りだとか、酷い悪評ばかり立てやがって。そんなアイツが今夜フィアンセを紹介するらしいって聞いた時は、どんな物好きだよ?って呆れてたのに、まさかの華さんだったなんて。俺の受けた衝撃、分かる?」

いや、ちょっと、分かんない。
とにかく一旦落ち着いて。

「もう絶対手加減しない!容赦せずにくどき落としてみせる。完全に俺のスイッチ入れたことを、今更後悔しても遅いから。覚悟して」

やる気スイッチでしょうか?
押した覚えはありませんが…

久我くんはギラッと目に何かを宿したように私を見つめると、ジャケットを脱いでポイッとソファに投げる。

「ど、どうして脱ぐの?」

「邪魔だから」

ネクタイの結び目に人差し指を入れてクイッと緩め、首からシュルッと抜き取る。

「ど、どうして取るの?」

「邪魔だから」

やばい、目がマジだ。
私はジワジワと後ずさる。

気がつくとベッドの縁に膝裏が当たっていた。
これ以上は下がれない。

「あの、久我くん」

「何?」

「おかしくない?なんで御曹司がうちの会社で働いてるの?」

構わず近づいてくる久我くんに、私はとうとうベッドにストンと座り込んでしまった。

「まさか、空我ホールディングスの御曹司だったなんて…」

すると久我くんは、片膝をギシッとベッドについて私に覆いかぶさる。

ひえっ!と思った次の瞬間、私の背中はベッドに沈んだ。
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